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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)922号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 大阪市

被控訴人(附帯控訴人) 阪峯梅吉 外八名

主文

原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人阪峯梅吉、同土井藤治郎、同藪内冨三郎、同宮島俊治らがそれぞれ控訴人の設置する学校の校務員たる地位を有することを確認する。

2  控訴人は、被控訴人らの主位的請求に基づき、

(一)  被控訴人阪峯梅吉に対し、

(1)  金二二一四万六六九六円及び

(ア) 内金二三万二四二八円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(イ) 内金九九万五一一二円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(ウ) 内金一〇九万七七〇〇円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(エ) 内金一二六万一〇〇八円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(オ) 内金一六七万一八四〇円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(カ) 内金一八四万五五〇四円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(キ) 内金一九六万七三二八円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ク) 内金二一〇万三四〇八円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ケ) 内金二一八万二四六四円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(コ) 内金二二六万五四〇八円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(サ) 内金二三七万二九七六円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(シ) 内金二四九万〇九一二円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(ス) 内金一六六万〇六〇八円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金二〇万九四九八円ずつ、

(二)  被控訴人土井藤治郎に対し、

(1)  金二三五四万八四二八円及び

(ア) 内金一〇三万七三四〇円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金一一四万三〇七二円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金一三四万二六五六円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金一七九万二三六八円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金一九八万一五八四円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金二一二万〇二五六円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金二二七万〇五九二円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金二三六万二六〇八円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金二四五万八五一二円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金二五六万六〇八〇円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金二六八万四〇一六円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金一七八万九三四四円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金二二万七九一九円ずつ、

(三)  被控訴人藪内冨三郎に対し、

(1)  金二二七〇万二二三二円及び

(ア) 内金一九万一一四四円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金一一四万三〇七二円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金一三四万二六五六円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金一七九万二三六八円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金一九八万一五八四円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金二一二万〇二五六円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金二二七万〇五九二円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金二三六万二六〇八円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金二四五万八五一二円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金二五六万六〇八〇円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金二六八万四〇一六円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金一七八万九三四四円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金二二万七九一九円ずつ、

(四)  被控訴人宮島俊治に対し、

(1)  金二四一四万九一二三円及び

(ア) 内金三九万二一四七円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金一二六万三六〇〇円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金一四七万六一四四円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金一八九万〇八六四円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金二〇八万七八五六円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金二二三万一七一二円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金二三八万九八二四円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金二四八万一八四〇円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金二五七万七七四四円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金二六八万五三一二円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金二八〇万三二四八円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金一八六万八八三二円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金二三万七九四七円ずつ、

(五)  被控訴人宮城ヨシに対し、金二〇四万一八三〇円及びこれに対する昭和四九年四月二五日以降右支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

をそれぞれ支払え。

3  控訴人は、被控訴人らの予備的請求に基づき、

(一)  被控訴人阪峯梅吉に対し、

(1)  金一七三七万五八四七円及び

(ア) 内金三四万六二六〇円に対する昭和四五年三月二一日以降、

(イ) 内金四一万六三九三円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(ウ) 内金五四万六四五九円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(エ) 内金六五万六三五七円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(オ) 内金七九万七八九五円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(カ) 内金一一四万九五六七円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(キ) 内金一三一万四七六六円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(ク) 内金一四三万二三〇六円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ケ) 内金一六三万三八六七円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(コ) 内金一七九万二〇二二円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(サ) 内金一八七万二六三二円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(シ) 内金二〇八万〇一七五円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(ス) 内金二二〇万五五一四円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(セ) 内金一一三万一六三四円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金七万一七二二円ずつ、

(二)  被控訴人土井藤治郎に対し、

(1)  金一七一七万五七三九円及び

(ア) 内金二六万四〇〇四円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(イ) 内金五七万九三六〇円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(ウ) 内金六七万七〇七四円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(エ) 内金八二万五七三七円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(オ) 内金一一九万九四五〇円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(カ) 内金一三三万六三二五円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(キ) 内金一四五万一四一六円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ク) 内金一六四万八五八二円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ケ) 内金一八〇万一六六六円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(コ) 内金一八八万六一四五円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(サ) 内金二一一万〇七二二円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(シ) 内金二二五万一三七〇円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(ス) 内金一一四万三八八八円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金六万七四七一円ずつ、

(三)  被控訴人藪内冨三郎に対し、

(1)  金一七一七万一八六九円及び

(ア) 内金四二万五八三六円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(イ) 内金五四万四五三三円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(ウ) 内金六六万四〇六〇円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(エ) 内金八〇万三四三五円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(オ) 内金一一五万七三〇九円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(カ) 内金一三一万二三一五円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(キ) 内金一四三万二〇九八円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ク) 内金一六三万八四九二円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ケ) 内金一八〇万一六六六円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(コ) 内金一八八万六一四五円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(サ) 内金二一一万〇七二二円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(シ) 内金二二五万一三七〇円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(ス) 内金一一四万三八八八円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金六万七四七一円ずつ、

(四)  被控訴人宮島俊治に対し、

(1)  金一七三一万六六八三円及び

(ア) 内金五七万一一三九円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金六八万五六九三円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金七八万〇七六四円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金一一六万四〇四六円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金一四四万三一八三円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金一五九万一二五〇円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金一七一万五八九七円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金一八四万八四二〇円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金二〇二万九六八六円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金二一四万六三七四円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金二二二万七六一九円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金一一一万二六一二円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り金六万二八九三円ずつ、

(五)  被控訴人宮城ヨシに対し、

(1)  金一一〇万九五三五円及び

(ア) 内金一一万九八一四円に対する昭和四八年一月二一日以降、

(イ) 内金九八万九七二一円に対する昭和四九年四月二四日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(六)  被控訴人宮城一夫、同宮城安子、同宮城修、同奥平和子らに対し各金五万九九〇七円及びこれに対する昭和四八年一月二一日以降右支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

をそれぞれ支払え。

4  被控訴人阪峯梅吉、同土井藤治郎、同藪内冨三郎、同宮島俊治らの主位的、予備的各請求中、本判決確定の日の翌日以降の給与ないし損害賠償の請求にかかる訴をいずれも却下する。

5  被控訴人らのその余の主位的金員請求及び被控訴人宮城ヨシ、同宮城一夫、同宮城安子、同宮城修、同奥平和子らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用のうち、控訴人と被控訴人阪峯梅吉、同土井藤治郎、同藪内冨三郎、同宮島俊治らとの間に生じた分は第一、二審とも控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人宮城ヨシとの間に生じた分は第一、二審を通じこれを四分し、その三を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた分は第一、二審を通じこれを一〇分し、その一を控訴人の、その余を同被控訴人らの各負担とする。

7  この判決は主文2項及び3項を通じ、

(一)  被控訴人阪峯梅吉、同土井藤治郎、同藪内冨三郎、同宮島俊治らについては各金二〇〇〇万円の支払を命じた部分に限り、

(二)  その余の被控訴人らについてはその支払を命じた金員全部について、

それぞれ仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)らの請求を棄却する。

3  被控訴人らの附帯控訴を棄却する。

旨の判決及び控訴棄却の場合における担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決主文第2、3項を次のとおり変更する。

控訴人は、

(一) 被控訴人阪峯梅吉に対し、

(1)  金三九五二万二五四三円及び

(ア) 内金九九万五〇八一円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(イ) 内金一五四万一五七一円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(ウ) 内金一七五万四〇五七円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(エ) 内金二〇五万八九〇三円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(オ) 内金二八二万一四〇七円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(カ) 内金三一六万〇二七〇円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(キ) 内金三三九万九六三四円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ク) 内金三七三万七二七五円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ケ) 内金三九七万四四八六円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(コ) 内金四一三万八〇四〇円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(サ) 内金四四五万三一五一円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(シ) 内金四六九万六四二六円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(ス) 内金二七九万二二四二円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り金二八万一二二〇円ずつ、

(二) 被控訴人土井藤治郎に対し、

(1)  金四〇七二万四一六七円及び

(ア) 内金二六万四〇〇四円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(イ) 内金一六一万六七〇〇円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(ウ) 内金一八二万〇一四六円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(エ) 内金二一六万八三九三円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(オ) 内金二九九万一八一八円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(カ) 内金三三一万七九〇九円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(キ) 内金三五七万一六七二円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(ク) 内金三九一万九一七四円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ケ) 内金四一六万四二七四円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(コ) 内金四三四万四六五七円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(サ) 内金四六七万六八〇二円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(シ) 内金四九三万五三八六円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(ス) 内金二九三万三二三二円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り金二九万五三九〇円ずつ、

(三) 被控訴人藪内冨三郎に対し、

(1)  金三九八七万四一〇一円及び

(ア) 内金一一六万一五一三円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金一八〇万七一三二円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金二一四万六〇九一円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金二九四万九六七七円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金三二九万三八九九円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金三五五万二三五四円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金三九〇万九〇八四円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金四一六万四二七四円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金四三四万四六五七円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金四六七万六八〇二円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金四九三万五三八六円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金二九三万三二三二円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り金二九万五三九〇円ずつ、

(四) 被控訴人宮島俊治に対し、

(1)  金四一四六万五八〇六円及び

(ア) 内金九六万三二八六円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(イ) 内金一九四万九二九三円に対する昭和四八年三月二一日以降、

(ウ) 内金二二五万六九〇八円に対する昭和四九年三月二一日以降、

(エ) 内金三〇五万四九一〇円に対する昭和五〇年三月二一日以降、

(オ) 内金三五三万一〇三九円に対する昭和五一年三月二一日以降、

(カ) 内金三八二万二九六二円に対する昭和五二年三月二一日以降、

(キ) 内金四一〇万五七二一円に対する昭和五三年三月二一日以降、

(ク) 内金四三三万〇二六〇円に対する昭和五四年三月二一日以降、

(ケ) 内金四六〇万七四三〇円に対する昭和五五年三月二一日以降、

(コ) 内金四八三万一六八六円に対する昭和五六年三月二一日以降、

(サ) 内金五〇三万〇八六七円に対する昭和五七年三月二一日以降、

(シ) 内金二九八万一四四四円に対する昭和五七年一一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(2)  昭和五七年一二月一日以降毎月二〇日限り金三〇万〇八四〇円ずつ、

(五) 被控訴人宮城ヨシに対し、

金四四三万一〇六八円及び

(1)  内金二八万五一二二円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(2)  内金五六万二五六四円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(3)  内金三五八万三三八二円に対する昭和四八年一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

(六) 被控訴人宮城一夫、同宮城安子、同宮城修、同奥平和子に対し、

各金六九万九七五八円及び

(1)  内金一四万二五六一円に対する昭和四六年三月二一日以降、

(2)  内金二八万一二八二円に対する昭和四七年三月二一日以降、

(3)  内金二七万五九一五円に対する昭和四八年一月二一日以降、

各支払済みに至るまで年五分の割合による金員、

を各支払え。

3  控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

旨の判決並びに第2項について仮執行の宣言。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決四枚目表七行目の「以下、」の前に「昭和五六年法律第九二号による改正前のもの、以下特記しない限り同じ、」を挿入する。

2  同八枚目表一一行目の「全く」から同一二行目の「ある」までを「全く規定は設けられていないばかりか、右規約ですら成立後昭和五二年までの一〇年の長きにわたり機能しないまま凍結されていたものである。」と改める。

3  同裏一〇行目の「(以下、市教連につき同じ)」を削除する。

4  同一四枚目表四行目の「要求斗争」を「要求闘争」と訂正する。

5  同一六枚目表二行目冒頭から同一九枚目裏六行目末尾までを次のとおり改める。 「4 給与及び死亡退職手当

(一) 被控訴人阪峯らの本件失職時における等級号、給料月額等は原判決別紙(三)記載のとおりである(扶養手当はいずれも配偶者(妻)に対するものである。)。

(二) 同被控訴人らが本件失職をせず、控訴人の職員として勤務した場合、同被控訴人らはそれぞれ本判決別表二1ないし5の「賃金明細表」(以下、単に「本判決別表二1ないし5」といい、他もこの例による。)に各添付の「賃金明細説明」記載のとおり、昇給、昇格ができ、同表二1ないし5(ただし、内入金、残金、相続人ら取得金、損害金起算日の各欄を除く。)記載のとおりの給料、諸手当(以下、両者を合せて「給与」ともいう。なお、諸手当とは扶養手当、調整手当、期末手当、勤勉手当をいい、被控訴人土井、同藪内、同宮島及び亡朝眞に給付される扶養手当のうち昭和四四年度から同五一年度までの額は原判決別紙(四)給与明細表(2) ないし(4) の扶養手当欄記載のとおりであり、同五二年度の額は九〇〇〇円、同五三年度の額は一万円、同五四年度以降の額は一万一〇〇〇円である。)の支払を受けることができたものであるから、控訴人にはその支払義務がある。

(三) 亡朝眞は昭和四八年一月三日死亡したが、同人の死亡退職手当は死亡時の給料月額に死亡退職手当支給率を乗じて算出されるものであるところ、同人が本件失職をせず右死亡時まで控訴人の職員として勤務した場合、同人は前記(二)のように昇給、昇格ができたものであるから、右死亡時の給料月額は一〇万〇二〇〇円であり、また、同人の勤続年数は二二・六年となるところ、条例によれば勤続年数二二・六年の死亡退職手当支給率は二二・〇五であるが、同人は同条例に基づき同支給率を八・二〇五増加させる旨の増額支給決定(以下「増額支給決定」という。)をも受けることができたものであるから、結局同人の死亡退職手当支給率は合計三〇・二五五となり、右数字に基づいて同人の死亡退職手当を計算すると本判決別表二6記載のとおり三〇三万一五五一円となり、控訴人はその支払義務がある。

(四) 控訴人の給与弁済期は当該月の二〇日である。

5  仮に、被控訴人阪峯らの本件失職後の昇給、昇格、期末、勤勉手当及び亡朝眞の死亡退職手当の増額等についての認定、決定が控訴人主張のような理由で認められず、従つて前記4の(二)、(三)の給与額及び死亡退職手当額と右認定、決定がない場合の給与額及び死亡退職手当額との差額(以下「差額部分」という。)について、給与性ないし死亡退職手当性(以下、両者を総称して「賃金性」という。)が認められないとしても、

(一) 本件失職処分をしたのは控訴人を補助する機関たる市教委であり、その個個の構成員たる職員が被控訴人阪峯らの身分取扱について故意又は重大な過失により、前記2、3のとおりその職務執行として誤つた判断をした結果、市教委がその公権力の行使として本件失職処分をしたもので、このような場合には市教委も国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条にいう公務員というべきであるから、控訴人は同法条に基づき本件失職処分により同被控訴人らに生じた損害を賠償する義務がある。

控訴人は、失職処分の存否を問題とするが、国賠法一条は公権力の行使を要件としているのであつて、抗告訴訟の対象のごとき処分の存在を要件としているものではなく、本件失職が同法条にいう行政上の作用としての公権力の行使にあたることは明らかである。

また、市教委は、地公法により地方公務員について定年制が禁じられていることは知りすぎる程知つており、市教委が本件失職処分を行うことについては、単なる過失というより故意又は重大な過失があつたことは、次のことからして明らかである。

(1)  立法沿革史学説史的検討によると、明白に定年制が禁じられていた事実、

(2)  自治省の行政解釈によつても、定年制が許されないことは再三確認され、戦前に定年制を実施していた地方自治体においても地公法施行に伴い定年制を廃止した事実、

(3)  他の地方自治体では定年制を実施せず、退職勧奨、優遇措置等により対処していたにもかかわらず、一人控訴人のみが定年制を実施した事実、

(4)  しかも、条例によらず、労働協約という形式を採つた事実、

(5)  最高裁判所及び下級裁判所において、公務員の定年制が禁止されていることを当然の前提とした判決が出されていた事実、

(二) よつて、控訴人は前記差額部分相当額については、国賠法に基づく損害賠償としてその支払義務がある。

6  内入金

被控訴人阪峯らは昭和四五年九月七日控訴人からそれぞれ本判決別表二1ないし5の内入金欄記載の金員の支払を受け、同表記載のとおり前記4の(二)の給与の支払の一部に充当した。

7  亡朝眞の死亡に伴う相続等

(一) 亡朝眞は前記のように昭和四八年一月三日死亡し、その妻の被控訴人宮城ヨシが三分の一、その余の被控訴人亡朝眞相続人らが各六分の一の各割合で亡朝眞の権利を相続したものであるが、前記4の(二)のように、同人が取得できた給与額(仮に、差額部分に賃金性が認められないとすれば、その余の賃金制の認められる部分と前記5の損害賠償請求権の額との合算額)は本判決別表二5の記載から分るように、昭和四六年三月までの分が二七一万九二五九円であるところ、前記6の内入金を控除すると残金は八五万五三六七円、同年四月から同四七年三月までの分が一六八万七六九四円、同年四月から同四八年一月までの分が一六五万五四九三円であり、被控訴人亡朝眞相続人らは前記相続分に従つて同表相続人ら取得金欄記載の各金員の請求権を取得し、

(二) 前記4の(三)のとおり、亡朝眞の死亡退職手当は、三〇三万一五五一円であるところ、その第一順位の受給権者は配偶者である被控訴人宮城ヨシであるから、同被控訴人において右死亡退職手当請求権を取得した。

8  結論

よつて、

(一) 亡朝眞を除く被控訴人阪峯らは控訴人に対し、(1) 同被控訴人らが控訴人の設置する学校の校務員たる地位を有することの確認と、(2) 主位的に(ア)本判決別表二1ないし4の同各被控訴人ら関係部分の残金欄最下段記載の金額及びその内金である各年度の累計欄記載の各金員(ただし、残金欄に金額の記載のある場合は同金員)に対する弁済期後である損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金と、(イ)昭和五七年一二月以降毎月二〇日限り、同表の同各被控訴人ら関係部分の昭和五七年一二月一日以降毎月給与・諸手当合計金欄記載の各金員の各支払を、(3) 予備的に前記差額部分とこれに対する不法行為後である同表損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、

(二) 被控訴人宮城ヨシは控訴人に対し、(1) 主位的に本判決別表二5の同被控訴人関係部分の相続人ら取得金欄最下段記載の金額と同表二6記載の死亡退職手当額の合計額四四三万一〇六八円及びその内金である同表二5の前記相続人ら取得金欄記載の各年度(ただし、昭和四四年度を除く。)の各金員(ただし、昭和四七年度分については同欄記載の金員に前記死亡退職手当額を加算する。)に対する弁済期後である損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(2) 予備的に前記差額部分とこれに対する不法行為後である同表損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、

(三) その余の被控訴人亡朝眞相続人らは控訴人に対し、(1) 主位的に本判決別表二5の同被控訴人ら関係部分の相続人ら取得金欄最下段記載の金額六九万九七五八円及びその内金である各年度(ただし昭和四四年度を除く。)の同欄記載の各金員に対する弁済期後である損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(2) 予備的に、前記差額部分とこれに対する不法行為後である同表損害金起算日欄記載の各日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

6 同一九枚目裏九行目を削除する。

7  同二四枚目表一行目の「市労連」を「市教連」と訂正する。

8  同七行目冒頭の「イ」を削除する。

9  同二五枚目表八行目の「交接」を「交渉」と訂正する。

10  同三二枚目裏三行目冒頭から同三四枚目表六行目末尾までを次のとおり改める。

「3(一) 同4の(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、被控訴人阪峯らが本件失職をせず、控訴人の職員として勤務し、かつ、被控訴人ら主張のごとく昇給、昇格し、同主張の諸手当の支給を受けるべく市教委の認定、決定、選考(以下、単に「市教委の認定、決定」ともいう。)を受けた場合に、被控訴人阪峯らが支払を受けることができた給与が被控訴人ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

被控訴人ら主張のごとき昇給、昇格は、後記三の5の(一)の次第で、なかつたものとして考えるべきであり、右昇給、昇格がなかつた場合の被控訴人阪峯らの給与は本判決別表四1ないし5記載のとおりである。

(三) 同(三)の事実中、亡朝眞が昭和四八年一月三日死亡したこと、同人の死亡退職手当は死亡時の給料月額に死亡退職手当支給率を乗じて算出されること、同人が本件失職をせず右死亡時まで控訴人の職員として勤務し、かつ、被控訴人亡朝眞相続人ら主張のごとく昇給、昇格した場合に、右死亡時の給料月額が一〇万〇二〇〇円となること、同人の勤続年数が二二・六で、この場合条例による死亡退職手当支給率が二二・〇五であること、同被控訴人ら主張のごとき増額支給決定があつた場合に、亡朝眞の死亡退職手当が同被控訴人ら主張のとおりとなることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(四) 同(四)の事実は認める。

4(一) 同5の(一)の事実は否認し、主張は争う。

(1)  市教委の被控訴人阪峯らに対する本件失職の通知は、本件定年制により同人らが各失職日の到来により失職したことを念のため通知したものにすぎず、右通知に形成的効果があるわけではなく、また、右通知以外に失職処分なるものが存在するわけでもないから、被控訴人らの主張はその前提を欠くものであるし、仮に、本件覚書の締結を公権力の行使というのであれば、その主張は国賠法の解釈を逸脱するものである。

(2)  また、本件失職について市教委に故意、過失のなかつたことは、次のことからも明らかである。

(ア) 地公法上、定年制を設置できない旨の自治省の行政解釈があるとしても、

(あ) 昭和二六年三月の自治省の第一回目の通達の前の同二五年二月に内閣法制局が同二二年一〇月制定の国家公務員法下の定年制について、同法に違反しないとしていること、

(い) 更に、同二八年六月「時の法令」一〇〇号は、地公法下の定年制について同法に違反しないとしていること、

(う) 本件覚書締結の少し前の同四三年二月に発表された「地方自治」二四三号の鎌田要人の論文も、従来の自治省通達を論難し、地公法は定年制を禁止していないことを明らかにしていること、

(え) 自治省の同二六年三月の通達以降も、地公法下の定年制について本格的に論及した学説といえるものは存在しなかつたこと、

(お) 地公法下の定年制について違法をいう判例もなかつたこと、

(か) 地公法上、定年制を禁じる明文の規定もないこと、

に照らすと、地公法下の定年制が違法であるとは認識しえず、自治省の通達に従わなかつたことをもつて過失があるということはできない。

(イ) 最高裁判所昭和三八年四月二日の判決は、公務員の期限付任用も例外的に認められるという趣旨の裁判例であつて、定年制が直接争点となつたものではなく、同判決が自治省の前記解釈を是認するものとは到底いい難く、右判決をもつて、市教委の過失の根拠とはなしえない。

(ウ) 前記のように、地公法下における定年制設置の許否については、積極、消極の両説が並存し、このように法令の解釈について見解が分れている場合に一方の説を採つたからといつて、故意、過失があるということはできない。

これを積極に解した市教委の見解がその後になされた裁判所の判断と異なるからといつて市教委に故意、過失ありとすることは結果責任を問うもので、行為責任を問う国賠法とは相容れないものである。

(エ) なお、市教委が本件定年制による退職者の退職について依願退職の形式を採つたことをもつて、失職させることに法律的な疑義があることを考慮した措置と推認することは許されない。

法律上定年制が明記されている裁判官、検察官、大学の教官、会計検査院の検査官、公正取引委員会の委員長、委員の定年退職は、いずれも本件定年制と同じ当然失職であるが、いずれの場合も本人について重要な事項であるから、確認的にそれぞれの官庁の辞令式に従つた退職辞令が交付されているのであり、市教委においても、職員の離職に際して発する辞令は「大阪市教育委員会職員辞令式」で定めるところにより行つており、分限及び懲戒による免職に基づく離職以外はすべて同辞令式第四条(6) 辞職の文例3に定める辞令を発して処理しているため、本件失職においても依頼退職の形式を取つたものであり、前記諸官庁の例と同じく確認的なものである。

しかるに、これを故意、過失の認定材料にするのは、実務慣行を無視するもので、経験則に違反しており、不当である。

(二) 同(二)も争う。

5 同6の事実中、控訴人が被控訴人ら主張のとおりの金員の支払をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

6 同7の事実中、亡朝眞が昭和四八年一月三日死亡し、被控訴人亡朝眞相続人らがその主張のように相続したこと、亡朝眞の死亡退職手当について被控訴人宮城ヨシが第一順位の受給権者であることは認めるが、その余は知らない(ただし、被控訴人亡朝眞相続人らの主張が認められた場合の計算額については争わない。)。」

11  同四一枚目表一行目の「施設管理」を「設置管理」と訂正する。

12  同四六枚目表八行目の「死亡退職金」を「死亡退職手当」と、同裏五行目の「勤務手当」を「勤勉手当」と、同末行目の「給与等」を「給与」と各改める。

13  同四八枚目裏七行目の「1」を「四」と訂正する。

14  同五四枚目裏六行目の「地公法は」から同八行目の「として」までを「地公法は、その第三章第九節に職員団体の規定を置いてはいるものの、全体としては、」と改める。

15  同五七枚目裏一二行目、同五八枚目裏一一行目の各「給与等」を「給与」と改める。

16  同別紙(一)(同九二枚目表)の宮城朝眞の採用日欄に「二五・七・一四」とあるのを「二五・七・四」と補正する。

二  被控訴人らの主張

1  地方公務員に対する定年制は地公法に違反することについて

(一) 地方公務員に対する定年制が地公法で禁止され、条例ないし労働協約で定年を定めることも許されないことは、同法制定以来の通説であり、同法制定に伴い出された昭和二六年三月一二日付自治省通達も同様の見解である。そのため、従来多くの地方公共団体で実施されていた定年制は、同法の制定とともに廃止され、その後、控訴人大阪市を除いて定年制を実施する地方公共団体は皆無となつた。

以上のように、定年制が同法に違反することを学説、行政実例及び現実の社会現象を通じいわば高度な法的確信ないしは規範となつている。

今回、地公法に定年制を導入する昭和五六年法律第九二号地方公務員法の一部を改正する法律が成立し、地公法第三章第五節「分限及び懲戒」の中に、新たな分限事項として定年制を導入し、(定年による退職)との見出しを付した第二八条の二以下の規定が設けられることになつたが、このことは裏を返せば、今回の法改正までは、地方公務員の定年制は地公法違反であるとの解釈や取扱が確立していたことの証左である。

(二) 控訴人は、定年による退職は、行政処分としての免職ではなく当然失職にあたることを根拠として、定年制は地公法に違反しない旨主張する。

しかし、定年制は、就労の意思及び能力のある労働者をその意に反し排除しようとする点において、その実質は解雇であるから、定年制は、解雇事由ないし解雇基準を定めるものであり、これは分限処分としての免職の事由を定めることであつて、地公法二七条二項に抵触し許されない。

(三) 仮に、定年制をもつて、失職の事由を定めたものと解するとしても、地方公務員に対し法律によらずして定年制を設けることは許されない。

現行公務員法制における公務員の任免に関する定めは、その身分保障という側面のみでなく、進んで、人事行政を客観的な規範のもとに民主的かつ科学的に運営することを目的としており、かかる規範の定立は、公務員の使用者たる国民の意思が反映される国会制定にかかる法律によるべきことは憲法の要請するところである。また、公務員の身分保障の意義は、一つには公務員の独立性と公平を保つことによつて行政の安定性ないし公正を確保するという公共目的を達することであり、他の一つは労働者としての公務員の生存権、労働権を保障すること及びこれによつて行政の公正をも確保することにあり、控訴人の主張するように旧憲法下の猟官や恣意的な人事行政に対する身分保障という意味においてのみこれを捕えることは重大な誤りである。

更に、地公法が定年制を採用していない理由は、職務遂行の適格性を有する限り年齢によつて差別を設けず、個別的人事管理によつて公務能率の確保が図られているので、一定年齢の到達を唯一の理由として退職させることは論理的にも整合せず、かえつて公務の安定性、公正の確保等を侵す結果を招くからであつて、立法論として定年制を検討することは別個の問題である。

以上の点からみて、地公法二七条ないし二九条の規定は、恣意的な人事行政に対しての身分保障のみでなく、その他の上記目的を達するために、積極的に地方公務員の離職の種類と事由を法定し、かつ、限定し、その反面、法律によらない失職事由を設けることを許さないということであるから、同法の法定事由に該当しない定年制による失職は地公法の認めないところというべきである。

(四) また、公務員に対する分限の制度は、行政処分によるもの及びそれ以外の事由によるすべての身分上の変動を対象とした制度であるから、地方公務員に対する分限の基準である地公法二七条二項にいう免職の意味は、行政処分による免職事由を例示的に規定した同法二八条一項によるもののほか、広く当該地方公務員の意に反する離職すなわち失職をも含む趣旨と解されるので、同法二七条二項は法律で限定した事由以外による失職を認めない旨の分限の基準を定めているとみるべきである。

(五) 更に、定年制を失職事由とみても、これは地公法一六条に違反する。

すなわち、地公法とその制度的内容を共通にする国家公務員法(昭和五六年法律第七七号による改正前のもの、以下特記しない限り同じ、以下「国公法」という。)に基づく人事院規則八-一二、七一条四号は、失職を「職員が欠格条項に該当することによつて当然離職すること」と定義し、地公法二八条四項も同様に欠格条項に該当する場合の失職(離職)の規定を設けており、失職は欠格条項との関連においてのみ予定された法的概念とみられるが、定年制による失職の制度を設けることは、一定年齢以上の者は公務員になれないという欠格条項を新たに設けることにほかならず、かかる欠格条項を法律によらないで定めることは地公法一六条に違反する。

2  単労職員について労働協約により定年制を定めることは違法無効であることについて

(一) 校務員は地公法三条二項による一般職の地方公務員であると同時に同法五七条にいう単労職員であり、地公労法附則四項により同法七条、八条等の適用があり労働協約締結権等を有するとされ、当事者自治の原則により地公法の適用が一部除外されてはいるが、なお地公法二七条ないし二九条の適用がある。

そして、地公法の前記趣旨からみて、地方公共団体が条例によつて定年制を定めることも許されないというべきであり、他方、労働協約が条例に抵触することも許されていない(地公労法八条)のであるから、条例により下位の規範とされる労働協約によつて定年制を定めることができないことは明らかである。

(二) 控訴人は、地公労法七条が免職その他の労働条件に関する事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結することができるとした規定を捕らえ、労働協約により勤務条件の一つである定年制を定めることは可能であり、かつ、これは地公法五七条により同法二七条二項の「この法律で定める事由」に該当すると主張する。

しかし、右の見解は、団体交渉と分限という全く別個の規定を単純に直結する誤りを犯しているのみならず、かかる見解に従えば、分限懲戒事由を労働協約により無制限に拡大しうることとなり、勤務条件法定主義のもとに職員の身分を保障した地公法の趣旨が没却され、同法所定の不利益処分の内容と矛盾する労働協約も可能となり、それが地公法二七条二項の「この法律で定める事由」として法律と同等の効力を持ち、かくては下位規範の労働協約が上位規範である法律を改廃する効力を持つこととなるのであつて、かかる現象が法治主義の原則に反し許されないことはいうまでもない。

(三) 以上要するに、単労職員は地公法によりその意に反する離職事由が法定されているのであるから、これとは別に当該公務員の意に反する離職事由である定年制を労働協約で定めることは、協約自治の域を超える違法無効である。

3  高齢者の昇給、昇格を禁ずる経験則はないことについて

控訴人は、控訴人は定年制を実施しているので、定年をこえる者の昇給、昇格を予定していないし、高齢者の昇給、昇格は経験則に反する旨主張する。

しかし、地方公務員に対する給与については給与に関する条例が設けられているところ、右条例には給料表、昇給の基準に関する事項、時間外勤務、夜間勤務又は休日勤務に関する事項が定められており、人事委員会は毎年少なくとも一回、給料表が適当であるかどうかについて地方公共団体の議会及び長に同時に報告するものとされ、給料表に定める給料額を増減するのが適当であると認めるときは、合せて適当な勧告をすることができることになつており、現に控訴人が給与に関する条例の改正によつて、毎年給与表の改訂、所定の基準に従つた昇給、昇格等の措置を講じてきたことは同人の自認しているところであり、この条例による決定の例外を認めることはありえない。従つて、もし六〇歳を超えて在職する者については昇給等させないことにするというのなら、法律又は条例に特別の定めを要することは当然である。

しかるに、控訴人は、六〇歳又は五七歳を超えて在職する者に対する昇給、昇格等について、給与に関する条例中に特別の定めは設けていない。

また、高齢者に対して昇給、昇格をさせるか否かは、職員に対する労働条件、待遇をどのように定めるかの問題であつて、各地方公共団体が自治の観念に従つて独自にその団体の特性に応じた判断のもとに決する事柄である。

ちなみに、大阪府下の各衛星都市の実情をみても、茨木市、四条畷市、交野市、寝屋川市、藤井寺市、富田林市、河内長野市、泉南市等においては六〇歳を超える高齢者に対する昇給や賃金改訂について特段の定めを設けていないし、昇給については一定の限定を設けるものの、賃金改訂については年齢による差異を設けていない地方公共団体は、大阪府を初め、府下二八市の多きに上つている。このように、その取扱は各地方公共団体によつてまちまちとなつており、各団体条例によつて住民自治の原則に従つて実施するところに委ねられているのが実状であつて控訴人の右経験則違反の主張は失当である。

4  控訴人の後記主張三の5の抗弁に対する認否と再抗弁

(一) 認否

(1)  後記主張三の5の(一)は争う。

(2)  同(二)の主張も争う。

(二) 再抗弁

(1)  被控訴人らが当審において拡張した主位的給与請求及び予備的損害賠償請求は、原審における主位的給与請求、従つて予備的損害賠償請求がいずれも計算上増額すべきものであつたのでこれを拡張したまでのことであるから、原審甲事件(以下、単に「甲事件」といい、原審乙事件もこの例による。)ないし乙事件の提起によつて消滅時効は中断されている。

その理由は、原判決事実第二の六の2摘示にかかる主張と同旨であるから、これを援用する。

(2)  また、本件は、長期にわたり被控訴人阪峯らの地位を争つている事案であり、控訴人の時効の援用は信義則に反し許されない。

5  控訴人の後記主張三の7の再再抗弁に対する認否

再再抗弁事実中、被控訴人らが原審で本判決別表三記載の拡張部分を除く明示の一部請求をしていたことは否認し、主張は争う。

三  控訴人の主張

1  地公法は定年制を禁止していないことについて

(一) 地公法二七条二項、三項は、同法二八条、二九条と対比すれば明らかなように、行政処分としての分限及び懲戒について定めているにとどまり、これとはその性質を異にする定年制をも禁止しているとするのは文理解釈の限界を超え許されない。

また、同法二七条が身分保障の規定であることに異論はないが、身分保障と定年制はその目的及び内容を異にするものであるから、身分保障の規定の存在自体から直ちに定年制を禁止しているものとするのは論理の飛躍であつて、同条が定年制を禁止している趣旨とみる根拠はない。

更に、地公法の立法過程、学説、過去における地公法改正案についての国会審議をみても、地公法二七条二項が定年制を禁止している旨の昭和二六年三月の自治省公務員課長名による行政解釈は誤つていることが明らかである。

なお、今回の昭和五六年法律第九二号地公法の一部を改正する法律の成立によつて新たに設けられた二八条の二以下の規定は、第三章第五節「分限及び懲戒」の中に入つてはいるが、これは職員の意に反して行政処分により職を失わせる意味での分限免職を規定した二八条一項とは異なり、まさに定年による退職そのものであつて、地公法中に定めのない新たな分限事由を設けたものと解すべき筋合のものではない。

(二) 定年制は地公法一六条に違反しない。

被控訴人らは、定年制は新たな欠格条項を設けることであつて、同条に違反すると主張するが、同条は、公務員にふさわしくない不適格者を排除する規定であり、定年制は右にいう不適格者としての欠格とは関係がなく、就官(任用)能力はあるが一定年齢に達した場合に職を失うというもので、同条の欠格事由とは異なるから、定年制は同条に抵触するものではない。

(三) なお、地公法では条例によつて定年制を設けることも理論上可能な点を注意すべきである。

すなわち、国家公務員や三公社職員についての勤務条件は法律により決定すべき事項とされているが、地方公務員については、勤務条件の基準、大枠について法律で定めることは可能であるとしても、法律に定めのない事項や抵触しない事項、法律の範囲内での具体的事項については本来的に条例でも定めうるのであつて、地方公務員の勤務条件については、法定主義イコール地公法法定主義ではなく、地公法・条例法定主義が正しく、地方公務員の定年制は条例で定めることができるのであり、以上の解釈は憲法の保障する地方自治の本旨にも適合する。

2  単労職員の法的地位等について

(一) 単労職員は、地方公営企業法(以下「地公企法」という。)の適用のある企業体職員とともに、地公法のほか地公労法、地公企法の一部適用により、多くの点でそれ以外の一般職の地方公務員と区別して民間労働者並みに扱われており、このことは単労職員の職務の性質が後者のそれと同質であることによるものであるから、前者における勤務条件法定主義を機械的に単労職員に適用すべきでない。

(二) そして、定年制は前記のとおり地公法二七条二項とは関連のない制度であつて、地方公務員に与えられた身分保障を損なう不利益処分ではないのであるから、単労職員についての定年制の労働協約は直接地公労法に基づきその効力を判断すべきであり、本件覚書が同法七条二号又は四号に該当する労働協約として有効であることは明らかである。

3  労組法一七条の労働協約の一般的拘束力について

(一) 労働協約の拡張適用の場所的範囲

労働協約たる本件覚書は、大阪市を場所的範囲とするすべての校務員に拡張適用されるべきである。

(1)  労組法一七条は労働協約の拡張適用の場所的範囲について「一の工場事業場」という文言を用いているが、その意味は、労基法等にいう「事業場」を指すものではなく、同条の立法目的に即して解釈すべきものである。

すなわち、同条の立法目的は、多数労働組合の締結した協約を事業場のすべての同種の労働者に拡張適用することによつて、当該事業場の同種の労働者の労働条件を統一化し、よつて労働協約の存立を確保し、労働組合の団結の強化を図ろうとすることにあり、労働協約の一般的拘束力制度は、決して、協約部外者である少数労働者の保護を直接目的とするものではない。

右のように労組法一七条の立法目的が、多数労働組合の協約の存立を確保し、当該多数組合の団結の保障を図ることにあるとするならば、当該労働協約の拡張適用されるべき場所的範囲は、当該労働協約の存立を確保するという目的のため、当該労働協約がいかなる場所的範囲において締結され存立しているかということ、及び当該労働組合の団結を保障するため、当該組合がいかなる場所的範囲を包括して結成されているかということ、すなわち当該協約及び組合の存立基盤である場所を範囲として決定されるべきである。従つて、当該労働協約が企業を範囲とする企業レベルで締結され存立しているか、又は事業場を範囲とする事業場レベルで締結され存立しているかによつて、拡張適用の場所的範囲を企業範囲か事業場範囲かに決定すべきものである。

右に述べた法理は、労組法一七条と並んで労働協約の一般的拘束力制度を規定している同法一八条についてみれば、更に明らかである。同条は労働協約が一定の地域を基盤として存立している場合、特定企業又は事業場において多数協約であるか否かにかかわらず、当該地域全体に拡張適用されることを定めている。

(2)  右の法理を本件に即してみれば次のとおりである。

(ア) 控訴人大阪市は、その市域全域にわたつて五〇〇余の市立幼、小、中、高、盲、聾、養護の各学校園を設置し、市教委はこれらの学校園の人事を管理している。そして、被控訴人阪峯ら校務員(管理作業員)は、右の五〇〇余の学校園に分散して、各学校園に平均二ないし三名ずつ配置されている。

(イ) 校務員の労働組合組織状況は、昭和四三年六月二二日現在(学現労結成時)で多数組合である教組に属する者約九一パーセント、少数組合である学現労に属する者約七パーセント、非組合員約二パーセントである。しかし、本件覚書締結日の昭和四三年三月二九日現在では、教組に属する者約九八パーセント、非組合員約二パーセントであつた。

このように、教組は右覚書締結当時は大阪市の学校園に配置された校務員を包括する唯一の労働組合であり、その後、教組からの脱退者により学現労が結成されたとはいえ、なお校務員の圧倒的多数をもつて組織され、大阪市全域を統轄する労働組合である。

なお、被控訴人阪峯らは右のうち少数組合である学現労に所属している。

(ウ) 控訴人と校務員の労働組合との交渉は、教組結成前は、市教連が対市教委交渉を行ない労働条件を統一的に決定してきたが、昭和三八年一月二九日の教組の市労連加盟後は、教組が市労連の構成単組として対市交渉を行ない、校務員についての統一的な労働条件の決定を行なつてきた。このように、市教連ないし教組による交渉は、相手方たる当事者に市教委と市の区別はあつたが、いずれの場合も、市教委管理下にある大阪市の五〇〇余の学校園のすべての教職員について、統一的な労働条件を決定するために行われてきた市レベルの交渉であり、各学校園又は区単位の交渉ではなかつた。しかも、このような交渉方法による労働条件の決定は数十年にわたつて維持されてきており、労使慣行としても定着しているというべきである。

(エ) 被控訴人らは、労組法一七条の「一の工場事業場」とは、各学校園単位にみるべきで、本件の場合も五〇〇余の各学校園ごとに同条所定の要件を満たしているか否かにより拡張適用の当否を判断すべきであると主張する。

しかし、本件覚書は、大阪市の全地域の学校園に配置されている校務員の圧倒的多数によつて組織された労働組合である教組との交渉によつて、校務員の統一的な労働条件基準を設定することを目的として締結された労働協約であるから、拡張適用の場所的範囲を、五〇〇余の学校園単位に分解して決定すべきではなく、労働協約の存立の確保と組合の団結の保障のためには、その存立の基盤である大阪市の範囲と考えるのが正当であり、このことは、組合員であるか否かを問わず、同種の労働者は、すべて同一の労働条件基準を統一的に適用されるべきであるという法の精神にも合致する。

(オ) また、本件のごとく、各学校園に平均して二ないし三名の校務員が配置されているにすぎない場合において、各学校園を拡張適用の場所的範囲たる事業場とするならば、「四分の三以上の同種の労働者」の要件は、ただ一名の転出入、退職によつて比率が逆転し、それによつて拡張適用の可否が左右されるという不安定な状態が生じ、協約自体の存立も不安定にならざるをえない。

(カ) 更に重要なことは、昭和四三年六月二二日に、本件覚書による定年制に反対するため、教組より脱退して結成された学現労組合員のうち、同五五年九月末現在で、右覚書に定める定年退職時期に、所定の退職処遇に従い、別段の紛議を生じることもなく退職した者は六五名に及び、定年制の効力について争つている者はわずかに本件の被控訴人らと別件の四名とにすぎないという事実である。この事実は、教組との交渉によつて決定された労働条件は大阪市全域の各学校園の校務員に画一的統一的に適用されるべきものであるという労働者の規範意識が厳然として存在していることを示すものにほかならない。    (二) 労働協約の拡張適用の人的範囲

労働協約たる本件覚書は非組合員のみならず、四分の一以下の少数組合である学現労の組合員にも拡張適用される。

(1)  被控訴人らは、多数組合の労働協約は、たとえ労組法一七条の要件を具備していても、同種の労働者が他に労働組合を結成している場合には、その組合員には拡張適用されないと主張するが、右主張は次の理由からして首肯し難い。

一般的拘束力制度の立法目的は、多数組合の労働協約の存立の確保と団結権の保障にあることは前記のとおりであるが、この制度には、更に、事業場内で圧倒的多数を占める(少なくとも四分の三以上)労働組合の労働協約による当該事業場内での画一的統一的な労働条件基準の設定という機能と効果が期待されている。すなわち、未組織労働者や少数組合の組合員を協約の適用外に放置することなく、多数組合の労働協約基準に画一的に統一することによつて、労使関係を秩序づけるという機能と効果である。同一事業場の同種の労働者について、主義主張を異にするごとに異なる組合が乱立し、同種の労働者でありながら、異なる労働条件の下に置かれているということは、労使関係の不統一のみではなく、不平等を発生させ、あるいは差別を助長し、ひいては労使関係自体を非常に不安定なものにする結果となる。ここにおいて労組法一七条は、当該事業場の四分の三以上の労働者を代表する多数組合の労働協約の人的適用範囲を、事業場内のすべての同種の労働者について拡張し、当該労働協約の適用下に置くことによつて、当該事業場に画一的統一的な労使関係の秩序を形成させることを認めているということができる。

そして、本件においても、定年制に関する事項こそ争われているが、それ以外のすべての事項について、市教連、教組の、対市教委、対市交渉の結果決定された労働条件によつて、市地域のすべての校務員が、教組に所属するか否かを問わず画一的統一的に処遇されてきている。

従つて、本件覚書についても、当然、非組合員であるか少数組合員たる学現労の組合員であるかを問わず、すべての校務員に拡張適用されるべきものである。

(2)  被控訴人らは、右のように、多数組合の労働協約を少数組合の組合員に拡張適用すれば、少数組合固有の団結権、団交権、労働協約締結権が不当に侵害されることになるから、これを認めるべきではないと主張する。

もちろん、少数組合といえども労働者の団結体である以上、その固有の団結権、団交権、協約締結権は保障されなければならないことは当然であるが、少数組合が独自の労働協約を締結していない場合は、多数組合の労働協約が少数組合の組合員に拡張適用されたからといつて、少数組合の団結権、団交権、労働協約締結権を侵害することにはならない。少数組合は独自に交渉を行ない、労働協約を締結することができる。しかし、この際に、同一事項について、特に合理的な理由もなく、多数組合の組合員と少数組合の組合員とを差別的に取り扱うことは、労使関係の秩序の画一性、統一性の要請に反するばかりでなく、不当労働行為に該当するということもなる。

(3)  仮に、多数組合の労働協約は、四分の一に満たない同種の労働者が別個の独自の労働組合を結成している場合は、これら少数組合の組合員には拡張適用されないとしても、本件においては、次のような理由からこれを肯定すべきである。

(ア) 被控訴人阪峯らの所属する学現労は、本件覚書が昭和四三年三月二九日に締結された後、これに反対して同年六月二二日に結成されたものであるが、同四二年五月ころ既に教組を脱退していたという被控訴人藪内を除くその余の被控訴人阪峯らは、本件覚書締結当時は教組に属する組合員であり、いずれも組合員として教組の組合としての統一的意思の形成に参加しておりながら、本件覚書が締結され実施される段階に入るや、これに反対して、定年制の実施による失職を免れるために、教組を脱退して学現労を結成し、あるいは学現労結成後、教組を脱退して学現労に加入したものである。このように、たとえ定年制に反対であつたとしても、教組の組合員としてその組合の統一的意思の形成に参加しながら、本件覚書が締結され実施されるに及んで、その適用を免れるために所属してきた組合を脱退し別に組合を結成加入することは、著しく組合員としての信義に反し団結権の濫用にあたるといわなければならない。

脱退して別に組合を結成し又は加入しさえすれば労働協約の適用を免れるとすれば、労組法一七条はその限りで無意味な規定となつてしまう。

(イ) 学現労は、定年制に反対して結成され、その後もその方針を変更していないと主張する一方、右定年制に定める退職時期に所定の処遇を受けて退職するか否かは組合員の個人的判断に委ねていると主張している。

このように学現労は、組合としては定年制に反対、組合員としては定年制に応ずるか否かは自由という態度を方針として定め、しかも前記のように、学現労組合員中六五名の多数が定年制に応じ、所定の退職時期に所定の処遇を受け円満に退職しているという事実がある。

そして、以上のごとく学現労が、定年制に関し、組合としてはともかく、組合員に対してはその個人的判断に委ねるという方針を取つている以上、本件覚書の拡張適用の当否についても、組合を離れて組合員の個人的レベルで取り扱い、これを拡張適用しても組合の団結権、団交権等の侵害にはならない。

(4)  被控訴人らは、学現労は確かに定年制に関する労働協約は締結していないが、これは白紙の状態を意味するのではなく、定年制の労働協約を意識的に締結しないことにより、地公法の身分保障を守り権利を確保しているのであつて、地公法は有利な協約にあたるし、また定年制を定める本件覚書は地公法で保障されている既有の権益を侵害するという理由から、本件覚書は拡張適用されないと主張する。

しかしながら、右主張はあくまで地公法が定年制を労働協約によつて定めることを禁止しているという論旨を前提とするものであつて、その前提に誤りがあることは既述のとおりである。また、地公法上定年制の規定を欠くことは事実であるが、このことは被控訴人らが主張するように、有利な労働協約あるいは既有の権益が存在することを意味するわけではない。

4  六〇歳を超える校務員(管理作業員)等に対する昇給昇格は経験則に反することについて

(一) 六〇歳を超えて在職する単労職員については、

(1)  国は、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二五年四月三日法律第九五号、以下「国の給与法」という。)八条九項及び初任給、昇格、昇給等の基準(昭和四四年五月一日人事院規則九-八、以下「人事院規則九-八」という。)三六条の二でもつて、

(2)  大阪府は、国にならつて、職員の給与に関する条例(昭和四〇年一〇月二二日大阪府条例三五号)五条八項及び職員の給料に関する規則(昭和四一年一月一七日大阪府人事委員会規則第一号)二三条の三でもつて、

(3)  京都府も、同じく職員の給与等に関する条例六条四項及び人事委員会規則六-二の三六条の二でもつて、

いずれも昇給させないことにしており(ただし、大阪府、京都府においては単労職員に限らない。)、しかも右三者とも定年制を実施していない場合である。

(二) 他方、控訴人においては、市労連との合意により昭和三一年一〇月三一日から市教委所管の学校園職員を除くすべての職員に定年制が適用され、その当時は五五歳定年であつたが、その後労使の協議により順次定年年齢が延長され、同五二年一〇月三一日からは五七歳一一月となり現在に至つている。

従つて、控訴人においては定年を超える者の昇給、昇格は予定していないのである。

(三) 以上の実例及び控訴人の事情にかんがみれば、仮に本件定年制が地公法に反し違法であるとしても、六〇歳を超える被控訴人阪峯らについて、当然のものとして昇給、昇格を認めることは、経験則に反するというべきである。

5  消滅時効の抗弁

(一) 被控訴人亡朝眞相続人らの主位的給与請求権及び予備的損害賠償請求権の時効消滅

被控訴人亡朝眞相続人らは、同人らの甲事件終了時より約四年経過後の昭和五二年一月二〇日付準備書面でもつて初めて給与請求をなしたものであるから、主位的給与請求権及び予備的損害賠償請求権はともに時効消滅している。

(二) 被控訴人らが当審において拡張した主位的給与請求権及び予備的損害賠償請求権の時効消滅

被控訴人らが当審において拡張した主位的給与請求権及び予備的損害賠償請求のうち、昭和五五年五月二二日付附帯控訴状及び同年一二月二日付準備書面によつて拡張した分については、同拡張請求のあつた日から二年ないし三年を超えてさかのぼる部分は、時効消滅している。

6  被控訴人らの時効中断の再抗弁に対する反論、認否

(一) 被控訴人亡朝眞相続人らの原審における主位的給与請求権の消滅時効中断の再抗弁に対する反論

亡朝真は甲事件原告の一人として、甲事件を追行中の昭和四八年一月三日に死亡し、相続人である被控訴人亡朝眞相続人らが受継の申立をしたが、原審裁判所は同年一二月二〇日右申立を却下したため、右訴は終了したものである。

よつて、被控訴人亡朝眞相続人らにおいて、亡朝眞の給与請求権を相続によつて取得したとして提起した乙事件の給与請求権は、甲事件の訴の終了時に既に時効によつて消滅している。

(二) 被控訴人らの当審における時効中断の再抗弁に対する認否

争う。

7  被控訴人らの当審における時効中断の再抗弁(1) に対する再再抗弁

被控訴人らが当審において拡張した主位的給与請求及び予備的損害賠償請求のうち、本判決別表三記載の拡張分(昭和五五年五月二二日付附帯控訴状及び同年一二月二日付準備書面によるもの)については、原審当時すでに履行期が到来し、これを請求することに何らの障害がなかつたのに、あえてこれを請求することなく推移したもので、被控訴人らは原審で明示の一部請求をしていたものというべきであるから、同表三記載の拡張分については、原審における甲事件ないし乙事件の提起によつても消滅時効は中断されない。

8  仮執行免脱宣言を求める理由

(一) 被控訴人亡朝眞相続人らを除く被控訴人らは、原判決に基づく仮執行により、昭和五三年五月にそれぞれ約一八〇〇万円の給与の仮払いを得ており、この間何らかの職業に従事し賃金を得ているとも推測されうるものである。

(二) 被控訴人亡朝眞相続人らも原判決に基づく仮執行により仮払いを得ている。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一地位確認請求について

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

なお、成立に争いのない甲第三ないし第七号証、乙第八〇号証によれば、市教委が地方自治法(以下「地自法」という。)一八〇条の七及び市教委の「教育委員会の事務の委任等に関する規則」により、学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関する管理執行権限のうち、校務員の採解の権限を昭和二八年から同四六年ころまで各行政区の区長に委任していた関係で(この点は委任の期間を除き当事者間に争いがない。)、本件失職通知はいずれも市教委委員長と被控訴人阪峯らが勤務する学校所在地の各行政区長との連名によつてなされていることが認められる。

もつとも、前記当事者間に争いのない事実に前掲の甲第三ないし第七号証を合せ考えると、本件失職の通知は、本件覚書に基づき被控訴人阪峯らに本件失職の効果が当然生じたとしてなしたその旨の事実の通知、すなわち講学上のいわゆる観念の通知にすぎず、新たな行政処分をなしたものとは解されない。

二  ところで、被控訴人らは本件失職は無効であるとし、その理由として本件覚書の無効を主張するので、右覚書の効力について判断する。

1  労働組合としての適格性、その実体ないし労働協約締結能力、市教連、教組の存在、被控訴人阪峯らが教組の組合員であつたかどうか及び市教連が締結当事者となるかどうか等は別として、少なくとも本件覚書が市教委と教組間に締結されたものであることは、被控訴人らも明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされるところである。

2  ところで、本件覚書の効力については争点が多岐にわたるが、最も基本的で最大の争点は本件覚書の定める本件定年制が地公法上、その改正を待たずに認められるか否かであると解せられるので、まずこの点について検討する。

(一) 校務員に適用される法律関係について

地方公共団体の設置する学校に勤務する校務員は、地公法三条二項にいう一般職に属する地方公務員であるから、原則として地公法の適用を受けるが、同時に同法五七条にいう単労職員に該当するため、その職務と責任の特殊性に基づき同法の特例を必要とするものについては別に法律で定めることになつているところ、地公労法附則四項によれば、その「労働関係その他身分取扱については、その労働関係その他身分取扱に関し特別の法律が制定施行されるまでの間は」、地公労法(一七条を除く。)及び地公企法三七条から三九条までの規定が準用されることとされているが、右にいう「特別の法律」は現在に至るも制定されていないので、結局、校務員を含む単労職員の「労働関係その他身分取扱」は、原則として地公企法三九条によつて適用を除外された規定(ただし、地公労法附則四項後段の読み替え規定により、職員団体に関する地公法五二条から五六条までの規定は適用除外しないもの、と読み替えられる。)以外の地公法、地公企法三七条(職階制)、三八条(給与)及び地公労法(一七条を除く。)が適用されることになつている。

その結果、校務員を含む単労職員は、地公労法により争議行為は禁止されている(一一条)ものの、労働組合を結成し、又はこれに加入することができ(五条一項)、七条各号に掲げる事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結することができる(七条)とともに、他方地公法上の職員団体を結成し、又はこれに加入することができ(地公法五二条三項)、また、勤務条件について地方公共団体の当局と交渉し(同法五五条一項)、書面協定を結ぶことができるし(同条九項)、その労働関係について地公労法に定めのないものについては、一部の規定を除外したうえ労組法及び労働関係調整法の規定が適用される(地公労法四条)ことになつてはいるが、本件で問題となつている地公法二七条ないし二九条の適用を受けることもまたいうまでもないところである。

(二) 地公法と職員の離職について

地公法によれば、職員は同法一六条各号(三号を除く。)の一に該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除く外、その職を失う(失職、二八条四項)ほか、「この法律の定める事由」に基づく分限処分及び懲戒処分によつて免職せしめられる場合(二七条二、三項、二八条一項、二九条一項)を除いて、その意に反して免職されることはない(二七条二項)とされている(なお、条件付採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員については二七条二項、二八条一項ないし三項の規定の適用はない(二九条の二)。)。また、同法は職員の任意の退職については直接規定していないが、これが許されることは二七条二項が「その意に反して」の免職のみ禁止していることからも明らかである(いわゆる依願免職、なお、人事院規則八-一二、七一条は国家公務員について「辞職」を規定している。)。

以上のように、地公法は職員がその意に反して身分を失う場合としては、失職と分限処分、懲戒処分としての免職のみ規定しているのであるが、失職は所定の欠格条項に該当する事由が生じた場合当然に離職するのに対し、免職は行政処分により離職するものであるから、両者はその法的性格を異にするものである。

(三) 本件定年制は失職事由を定めたものであることについて

定年制とは、労働者が所定の年齢に達したことを理由として、自動的に、又は解雇の意思表示によつて、その地位(職)を失わせる制度であると解されるところ、前記当事者間に争いのない本件覚書の記載によれば、その内容は「市教委所管の校務員、作業員のうち昭和四五年四月三〇日までに満六〇歳以上となる者は同覚書所定の退職時期に全員洩れなく退職するものとし、その場合においては同覚書所定の処遇を行なう。」という趣旨のものと解釈することができるので、本件覚書の定める本件定年制は、任命権者たる市教委の何らの行政処分を必要とせず、所定の退職時期の到来と共に当然退職することを定めたものであつて、自動的にその地位(職)を失う定年制に属するものというべきであるから、法的性格としては、免職処分事由ではなく、失職事由を定めたものであるということができる。

(四) 地公法と失職事由としての定年制について

(1) 〈一〉(ア) まず、地公法二八条の見出しには(分限)とあるところ、同条は分限処分(二八条一項ないし三項)のみならず、失職(同条四項)についても規定しているのであるから、右見出しにいう分限とは分限処分と同義ではなく、分限処分のほか、少なくとも失職をも含む概念、いわば広義の分限であることが明らかであり、また、同法二七条の見出し及び同条一項にいう分限も同じく広義の分限と考えられ、従つてまた同法第三章職員に適用される基準第五節分限及び懲戒にいう分限も同じく広義の分限であると解されるので、地公法は、右第五節分限及び懲戒によつて、狭義の分限たる分限処分及び懲戒処分に限らず、広く職員の身分の喪失及び身分上の変動を網羅的に規定するとともに、右に規定されている種類以外の理由による身分の喪失及び身分上の変動はない趣旨をも間接的に規定し、もつて職員の身分保障を定めているものということができる。

(イ) 更にまた、分限及び懲戒免職処分事由については、地公法二七条、二、三項において「この法律で定める事由による場合でなければ」との文言を置いてその事由を地公法所定のものに限定していること、失職事由については、当然失職とは異なり任命権者に裁量の余地のある分限又は懲戒免職処分事由についてさえ右のように「この法律で定める事由による場合でなければ」との文言を置いてその事由を地公法所定のものに限定していること及び地公法二八条四項で失職要件の緩和については、「条例に特別の定がある場合を除く外」との文言を置いて条例等法律以外の法形式によることを許しているのに対し、失職要件の加重ないし失職事由の追加については条例等法律以外の法形式によることを許す旨の規定は何ら置かれていないこと等にかんがみれば、地公法は、分限又は懲戒免職処分及び失職についてそれぞれその事由を制限的に列挙していて、右以外の分限又は懲戒免職処分及び失職の各事由を条例等法律以外の法形式によつて追加することを許さない趣旨を明らかにし、もつて、これまた職員の身分保障を定めているものと解することができる。

(ウ) ちなみに、地公法二八条は一、二項で意に反する降任、免職、休職の規定を置き、これを受けて、三項で意に反する免職等の手続、効果は原則として条例で定めるものとし、四項にはこれとは別に失職の規定を置いているから、二八条にいう免職は失職を含まない趣旨であることは明らかであり、従つて、二七条二項の免職も同じく失職を含まないものというべきであるから、二八条四項に規定する以外の失職事由を法律以外の法形式で追加することが許されない直接の根拠を、二七条二項の「この法律に定める事由による場合でなければ」との文言に求めることは正当ではない。

〈二〉 また、地公法は、右にみた分限及び懲戒を含め、職員の任用、給与等の勤務条件、服務その他人事行政の根本基準を法定する立場を採つているところ、同法がもともと職員の利益を保護する性格をも有していること(同法一条参照)などからみても、右法定主義は職員の利益を保障する趣旨で規定されていると解することができることにかんがみれば、職員の不利益処分等を規定する地公法二七条ないし二九条の規定は職員の利益保護の方向でその要件を厳格に解釈すべきものということもできる。

〈三〉 このようにみてくると、地公法はその第三章職員に適用される基準第五節分限及び懲戒において、失職を含め職員の不利益処分等のすべてを規定し、これによりその身分を保障しているものと解すべく、これを職員の離職に限つていえば、同法は二七条二項、二八条一項により分限免職とその事由を、二七条三項、二九条一項により懲戒免職とその事由を、二八条四項により当然失職とその事由をそれぞれ規定しているが、これは職員の離職事由のみならず、その種類をも右の三種に限定し、それ以外の離職は、職員個個人の意に反しない免職を除きすべてこれを認めない趣旨であると解するのが相当である。

(2)  更に、同法は職員の採用については条件附採用制度をとり(二二条一項)、臨時的任用については特に規定を設け、その要件、期間等を限定していること(同条二、五項)などからみて、同法は定年制を採用せず、職員の任用を無期限のものとする建前をとつているものとも解される。

(3)  もつとも、地公法の右のような身分保障の趣旨は、職員の身分を保障し、安んじて自己の職務に専念させることにより公務の適正な遂行を全うさせることにあると解されるが、一般に定年制それ自体が公務員ないし右のようなその身分保障の趣旨に必ずしもなじまないものではないことは、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第六六号証の二によつて認められる西ドイツ連邦官吏法四一条一項(法律に基づく例外を認めつつ、官吏について六五歳定年を定めている。)のほか、我が国においても、その職務と責任の特殊性に基づくとはいえ、裁判官(憲法七九条五項、八〇条一項ただし書、裁判所法五〇条)、検察官(検察庁法二二条)、国公立大学の教員(教育公務員特例法八条二項)、公正取引委員(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律三〇条三項)、会計検査官(会計検査院法五条三項)、自衛官(自衛隊法四五条一項、同法施行令六〇条及び別表第九)等に定年制又は停年制が認められていることからも推認できるところである。

そして、職員といえども老齢による労働能力の逓減は一般的に避けられないところであるが、地公法は、この点については、定年制によつてではなく、二八条一項一号ないし三号の運用によつて個個的に解決しようとしたものと解すべきである。

ただ、実際問題として、定年制を採用しないまま職員の新陳代謝の円滑化を図ることの困難なことは、公知のように、今日大多数の地方公共団体において右目的を達するため広く退職勧奨の行なわれていることからも明らかである。

しかし、地公法は、労働立法政策として、定年制不採用の趣旨を含む身分保障規定を置くことにより、職員をして安んじて職務に専念させて公務の遂行を全うせしめ、もつて公務の中立、公平性と安定性及び能率的運営を図ろうとしているものというべきである。

(4)  以上によれば、地公法は定年制を採用する建前をとつていないのみならず、失職事由としての定年制なるものは同法二八条四項に規定する失職事由のいずれにも該当せず、かつ、同法は同条項に規定する以外の新たな失職事由を法律以外の法形式で追加することを許していないものと解すべきであるから、結局、失職事由としての定年制の実施は同法の改正なくしては許されないものというべきである。

(5)  なお、成立に争いのない甲第四八号証、第五四号証の二、第一〇五号証に当裁判所に顕著な事実を合せ考えると、

〈一〉 昭和二五年地公法が制定される以前には相当数の地方公共団体が条例等により定年制を設けていたが、同法二七条ないし二九条の施行された昭和二六年八月一三日以後右定年制を定めた条例等は同法二七条二項に抵触するものとして右定年制を廃止しており、この点は自治省も再再の行政実例により確認しているところである(行政実例、昭和二六年三月一二日付地自公発第六七号、同二九年一一月二〇日付自丁公発第一九七号、同三〇年三月八日付自丁公発第四〇号、いずれも自治省公務員課長回答)こと、

〈二〉 政府は昭和三一年以来数次にわたり地方公共団体が条例で定年制を実施しうることを内容とする地公法の一部改正案を国会に提出したが、いずれも審議未了(廃案)となつていたところ、ようやく昭和五六年一一月に昭和五六年法律第九二号地方公務員法の一部を改正する法律が成立し、地公法第三章第五節分限及び懲戒の中に、(定年による退職)との見出しを付した二八条の二ないし四の規定を新設し、同時に、二八条の見出しを(降任、免職、休職等)と改め(昭和六〇年三月三一日から施行)、新たな分限(広義)事項として定年制を導入したこと、

〈三〉 また、地公労法三条二項の職員の同法七条二号の懲戒の基準の意味について、昭和三四年三月一七日付で東京都交通局労働部長から労働省に対し「地公労法は地公法の特別法である関係上、地公法二九条一項規定の懲戒の基準とは別個に新たな懲戒の基準を労働協約として締結しうる意か。もし、然りとすれば労働協約は法律に優先する結果になり、然らずとすれば地公労法七条二号の懲戒の基準は無意味な規定と思われるが如何。」なる旨の質疑がなされたのに対し、同年四月八日付で労働省労働法規課長から、「地公労法七条二号により同法三条二項の職員の懲戒の基準に関する事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結できるが、右の職員についても地公法二七条一、三項、二九条の適用があるから、右事項に関してはこれらの規定に抵触しない範囲内においてのみ団体交渉をし、労働協約を締結することができるものとする。」旨の回答がなされていること、

が認められ、これに反する証拠はない。

そして、今日大多数の地方公共団体が定年制を設置することなく、退職勧奨を実施し、高齢職員対策としていることは前記のとおりであつて、結局行政解釈や実務等も、定年制は地公法上許されておらずその実施は法律の改正なくしてはありえないもの、ないしはこのことを前提としているものということができ、上来説示の当裁判所の見解ともその結論において一致するものである。

(五) 本件覚書の効力について

以上(一)ないし(四)説示の次第によれば、結局失職事由としての本件定年制を定めた本件覚書は、地公法一六条、二八条四項の規定の趣旨に抵触し、その限りにおいてその効なきものというのほかはない。

なお、労働協約は法律、条例等より下位の法形式で、法律、条例等に抵触する限度で効力を有しないものであるから(地公労法八条ないし一〇条)、本件定年制の定めが労働協約であるか否かは右の結論に何らの消長をきたすものではない。

(六) ところが、控訴人は、本件定年制は地公法に抵触せず、仮に抵触するとすれば、同法はその限りにおいて憲法に違反するものである等、本件定年制は有効である旨主張し、反論するので、以下右主張、反論について検討する。

(1)  本件定年制と地公法二七条二項、二八条一、三項の関係及び分限免職処分事由としての定年制と地公法との関係に関する主張について

控訴人の主張、反論のうち、本件定年制が地公法二七条二項、二八条一、三項の分限免職の事由を定めたものでないことを前提とするものや分限免職事由としての定年制と地公法との関係に関するものは、前記説示のとおり本件定年制が地公法に抵触する理由は、それが同法二七条二項、二八条一、三項の分限免職の規定に違反することを理由とするものではないのであるから、控訴人の右主張はいずれもその前提を欠くものないしは関連性がないものとして失当たるを免れない。

(2)  定年制は地公法一六条に違反しないとの主張について

控訴人は地公法一六条は公務員にふさわしくない不適格者を排除する規定であり、定年制は不適格者としての欠格とは関係がなく、就官(任用)能力はあるが、一定年齢に達した場合には失職するもので、同条の欠格事由とは異なるから、定年制は同条に抵触するものではない旨主張し、定年制が同条所定の欠格事由でないことは主張のとおりであるが、地公法は、その一六条、二七条二、三項、二八条四項、二九条一項によつて、離職を分限免職、懲戒免職及び当然失職の三種に限定し、それ以外の離職は、職員個個人の意思に反しない免職を除いてはすべてこれを認めない趣旨であると解すべきこと前記説示のとおりであるから、定年制が地公法一六条所定の欠格事由でないからといつて、それが地公法に抵触しないとはいえないから、右主張は本件定年制が地公法上認められることの根拠とはなし難い。

(3)  本件定年制は地公法二七条ないし二九条の身分保障の趣旨に矛盾しないとの主張について

控訴人は、地公法二七条ないし二九条が旧憲法下の猟官や恣意的な人事の弊害を除去するため設けられたものであることを理由として、定年制は同法条の身分保障の趣旨に矛盾しない旨主張するが、同法条が設けられた趣旨は控訴人の主張するような消極的な目的にとどまらず、更に積極的に公務の中立、公平、安定性等に資するべく職員の利益を保護する目的をも含むものであること前記説示のとおりであるから、控訴人の右主張はその前提を欠き失当として排斥を免れない。

(4)  当然失職は条理上当然に認められる場合があり、本件定年制もこれにあたるとの主張について

控訴人は、当然失職については、地公法二八条四項の場合に限らず、期限付任用の期限が到来した場合のように条理上当然に認められる場合があり、定年制はこれにあたる旨主張するが、期限付任用が例外的に認められる場合においても、期間の満了による勤務関係の消滅は、期間の定めのない任用に関する定年制や失職とは本来的に異質な概念であり、期限付任用における期限の到来した場合のあることをもつて直ちに法律の規定を離れて条理上一般に失職がありうるとする根拠とはなしえないものであるから、控訴人の右主張も失当というべきである。

(5)  地方公務員については定年制を条例で設けることも可能であるとの主張について 控訴人は、地方公務員については、法律に定めのない事項や法律に抵触しない事項、法律の範囲内での具体的事項については本来的に条例でも定めうるのであつて、かかる解釈は憲法の保障する地方自治の本旨にも適合する旨主張する。

しかしながら、地公法の趣旨は、条例等法律以外の法形式によつて定年制を定めることは同法に抵触するとするものであること前記説示のとおりである以上、控訴人の右主張は採用の限りではない。

(6)  単労職員については、定年制に関し労働協約を締結することは地公法の予定するところであるとの主張について

控訴人は、単労職員については、一般の地方公務員における勤務条件法定主義を機械的に適用すべきではないし、また、地公労法七条二号、四号により、免職の基準に関する事項や労働条件に関する事項について団体交渉し労働協約を締結することができるものであるから、失職事由としての定年制について労働協約を締結することは地公法の予定するところである旨主張する。

しかしながら、前記説示のように、単労職員についても少なくとも地公法二七条ないし二九条の適用があることは明らかであり、また、そもそも団体交渉の対象とし労働協約を締結しうる事項というのは、任命権者に裁量権の存在する事項に限られるものであるのに、前記のように、失職事由は地公法一六条、二八条四項により限定的に法定されているのであるから、任命権者にはその追加について何らの裁量権もないものであつて、失職事由としての定年制のごとき定めは団体交渉、労働協約の対象事項にはなりえない性質のものであるばかりでなく、前記のように、労働協約は法律、条例等より下位の法形式で法律、条例等に抵触する限度で効力を有しないものであるのに、かかる労働協約によつて失職事由を追加することができると解することは、法令の段階的構造を否定することになり、法治主義の原則に反し許されないものであるから、控訴人の右主張も失当というほかはない。

(7)  地公法が定年制を定めることを禁止しているとすれば、同法はその限りにおいて憲法に違反するとの主張について

控訴人は、地公法二七条二項、二八条一項が地方公共団体に対してすべての定年制を禁止しているとすれば、右各条項はその範囲で憲法九二条、九四条、一四条に違反し、無効である旨主張する。

ところで、憲法九二条は「地方自治の本旨」が何であるかを明示していないが、前記のように、地公法は、定年制採用の建前をとらないことをも含めて、職員に対し、その身分を保障し、安んじて職務に専念できるようにすることが「地方公共団体の行政の民主的且つ能率的な運営を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資する」(同法一条)との立場で立法されているもので、右のような立場もそれなりに合理性を首肯しうるところであり、このような立場をとるか否かはひつきよう立法政策の問題であるというべきであり、条例等法律以外の法形式による定年制を禁止することが直ちに「地方自治の本旨」に反し、憲法九二条、九四条に違反するといえないというべきである。

更に、地方公務員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するもので(憲法一五条、地公法三〇条)、その給与は主に税収によつて賄われ、勤務条件は法定され、労働基本権も制限を受けるなどその職務と責任に特殊性を有するのであるから、民間企業において定年制が実施できるからといつて、地公法の前記規定が憲法一四条に違反するということはできないし、また、国公法も国家公務員に対する身分保障の反面等として定年制を禁止していると解すべきことは地公法と同様であるところ(国公法七五条ないし七八条等参照)、国家公務員と地方公務員とは、その公務員としての地位、責任、職務の本質等において径庭はないというべきであるから、地公法が定年制の設置を地方公共団体の制定する条例に委ねず、国公法と同様法律の改正によらなければならないとしているからといつて、直ちに憲法一四条に違反することにはならないものというべく、この点も、前記と同様ひつきよう立法政策の問題というべきである。

従つて、控訴人の右憲法違反の主張も失当たるを免れない。

(8)  本件覚書は六〇歳以上の校務員、作業員について地公法二八条一項三号の分限事由を具体化したもので、その適用を受けた被控訴人阪峯らも六〇歳も超えていたのであるから、本件失職は有効であるとの主張について

控訴人は右のように主張するが、地公法二八条一項三号はその文言自体からみても、またその身分保障の趣旨からみても明らかなごとく、職員個人毎に具体的にその適性格を判断することを要求しているものであるところ、一般に老齢により労働能力殊に肉体的能力の逓減することは公知の事実であるが、その逓減の程度に個人差のあることも公知の事実であつて、同条項号該当事由の有無を画一的に年齢をもつて処理することは同条項号の趣旨に反するばかりか、定年制を採用しない建前を採つている同法を潜脱するものであつて、許されないところであるといわざるをえない。

よつて、控訴人の右主張もまたその余の判断に及ぶまでもなく理由がないものといわなければならない。

(七) ちなみに、本件定年制を定めた本件覚書が無効であるとはいつても、それは定年制に関する限りにおいてであつて、法的に全く無意味のものと解する必要はなく、例えば、本件覚書に従つて何らの異議をとどめず退職(辞職)した者についてはその地位(職)を失うものと解することができる。更に、本件覚書は、見方によつては、教組、市教連において所定の退職該当者である校務員、作業員が全員洩れなく退職するよう努力すること、その反面において全員洩れなく退職した場合には退職者に対し市教委が所定の優遇措置を講ずること(ただし、条例に基づくことを要する。地公企法三八条四項参照。)を合意したものとみることもでき、従つて、個個の校務員、作業員にとつては、該当者が全員洩れなく退職するとの条件付とはいえ、退職勧奨の基準として機能すると解する余地もある。

しかしながら、原審証人上杉澄の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)及び原審における被控訴人阪峯梅吉、同宮島俊治各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合せ考えれば、被控訴人阪峯らはいずれも市教従の組合員であつたが、教組、市教連及びその加盟組合である市教従の本件覚書締結に反対し、原判決別紙(一)の「市教従脱退日」欄記載の日(ただし、被控訴人阪峯梅吉については昭和四三年三月三〇日)に市教従を脱退し(控訴人の主張によれば、同被控訴人らは同時に教組の組合員でもあつたことになるが、仮りにそうだとしても、その教組への加入は市教従組合員であつたことに基づくというのであるから、市教従の脱退と同時に教組をも脱退したということになる。)、定年制反対を唱える学現労を結成又はこれに加入したこと(被控訴人阪峯らがもと市教連加盟単組の市教従の組合員であつたが、後に脱退し、学現労の組合員となつていることは当事者間に争いがない。)が認められ、原審証人上杉澄、同上甲清一の各証言中、右認定に抵触する部分は前掲の各証拠に比照して措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、いずれにしても、被控訴人阪峯らが本件覚書に従つて退職することに異議がないということはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠もないので、同被控訴人らが本件覚書に従つて退職(辞職)したとみる余地もないというべきである。

三  してみれば、その余の判断に及ぶまでもなく、被控訴人阪峯らに対する本件失職は無効であり、従つて亡朝眞を除く被控診人阪峯らはなお控訴人の設置する学校の校務員たる地位を有し、亡朝眞は昭和四八年一月三日死亡するまでその地位を有していたものといわなければならない。

第二主位的給与等請求について

一  まず、請求原因4の給与について判断する。

1  請求原因4の(一)の事実、同(二)の事実中、被控訴人阪峯らが本件失職をせず、控訴人の職員として勤務し、かつ、被控訴人ら主張のごとく昇給、昇格し、諸手当の支給を受けるべく市教委の認定、決定を受けた場合に、被控訴人阪峯らが支払を受けることができた給与が本判決別表二1ないし5(ただし、内入金、残金、相続人ら取得金、損害金起算日の各欄を除く。以下、特記しない限り同じ。)記載のとおりであること、同(四)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、控訴人の原審における主張及び抗弁5について検討する。

(一) 校務員が昇給、昇格し又は諸手当のうち調整手当を除いたものの支給を受けるについては、市教委の認定、決定を要し、その手続、要件、基準等が条例等により控訴人主張のとおり定められていること、調整手当は給料に扶養手当を加算した額の一〇〇分の八であることは当事者間に争いがない。

そして、弁論の全趣旨によれば、被控訴人阪峯らが本件失職をしなかつたとすれば、同被控訴人らは控訴人の職員としての勤務を続け、かつ、被控訴人ら主張のごとき昇給、昇格及び諸手当の支給を受けるのに必要な前記条例等所定の認定、決定基準(以下「認定、決定基準」という。)を満たし、市教委の認定、決定を受けたことがうかがわれ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) しかしながら、まず、昇給、昇格については前記当事者間に争いのない事実のとおり、控訴人の条例等によつて、昇給については「・・・・昇給させることができる。」と規定されており、また、昇格についても市教委が「選考」することになつているのであるから、昇給、昇格するか否かは市教委の裁量に基づく認定、決定に委ねられているものというべきである。もつとも、裁量とはいつても、認定、決定基準に基づいたものでなければならないし、恣意的な運用の許されないことはいうまでもないところである。 従つて、結局、昇給、昇格については認定、決定基準に基づく市教委の裁量による個別的な認定、決定を要するものと解すべく、右認定、決定基準を満たしているからといつて当然に右認定、決定があつたものとして扱うことはできず、殊に、市教委が行政庁であることにかんがみるとき、右認定、決定があつたものとして扱うことは、裁判所が市教委に代つて右認定、決定をなしたことになり、この点からも許されないものというべきである。

この点について、被控訴人らは、昇給、昇格については形式的要件さえ満たせば、欠格条項に該当しない限り「良好な成績で勤務した」者として全員昇給し、あるいは「勤務成績優秀な者で、かつ選考された者」としてほとんど例外なく昇格しており、このことは慣行化している旨主張し、成立に争いのない甲第六三号証及び弁論の全趣旨によれば、昇給、昇格の運用実態が右のとおりであることがうかがわれないわけではないが、右事実から直ちに当然市教委の認定、決定があつたものとみることはできない。

(三) 次に、諸手当について検討するに、まず扶養手当については、被控訴人阪峯を除く被控訴人阪峯らについては、前記当事者間に争いのない事実のとおり、本件失職当時いずれも配偶者(妻)を扶養親族として扶養手当の支給を受けていたのであるから、同被控訴人らは扶養手当に関する市教委の認定、決定を受けていたことが推認される。そして、成立に争いのない乙第八一号証(「職員の給与に関する条例」)、同第八二号証(「単純な労務に雇用される職員の給与の種類及び基準に関する条例」)によれば、扶養手当については、

市教委の認定、決定を受けてその支給が開始されると、その後条例所定の変更事由の生じない限り継続的にその支給を受けるものであることが認められるところ、右事由のあつたことについての主張立証はないから、同被控訴人らは右手当の支給を受けうべきものである。

また、調整手当についても、賃金性を肯認しうる給料(月額)と扶養手当を確定しうる以上、その合計額に前記当事者間に争いのない一〇〇分の八を乗じることによつて得られる額についてその支給を受けうべきものである。

他方、期末、勤勉手当については、弁論の全趣旨によれば一応支給率自体は定まつてはいるものの、前記当事者間に争いのない事実のとおり、職員の勤務実績に基づくものであり、前記昇給、昇格と同様その都度市教委の裁量に基づく個別的な認定、決定を要するものというべきであるから、前記昇給、昇格の場合と同様の理由により、当然右期末、勤勉手当の決定があつたものとして扱うことはできないものといわなければならない。

二  次に、亡朝眞の死亡退職手当について検討する。

1  請求原因4の(三)の事実のうち、亡朝眞が昭和四八年一月三日死亡したこと、同人の死亡退職手当は死亡時の給料月額に死亡退職手当支給率を乗じて算出されること、同人が本件失職をせず右死亡時まで控訴人の職員として勤務し、かつ、被控訴人亡朝眞相続人ら主張のごとく昇給、昇格した場合に、右死亡時の給料月額が一〇万〇二〇〇円となること、同人の勤務年数が二二・六で、この場合の条例による死亡退職手当支給率が二二・〇五であること、同被控訴人ら主張のごとき増額支給決定があつた場合に、亡朝眞の死亡退職手当が同被控訴人ら主張のとおりとなることはいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、控訴人の原審における主張及び抗弁5(一)未段について検討する。

まず、校務員が昇給、昇格するについては市教委の認定、決定を要し、当然に右認定、決定があつたものとして扱うことのできないことは前記説示のとおりである。

そして、成立に争いのない乙第二号証、第三号証の二(「職員の退職手当に関する条例」)によれば、増額支給決定については、「在職中勤務成績優秀な者等特別の考慮を払う必要があると認められる者」について、「なお増額して支給することができる。」と規定されているのであるから、増額支給決定をするか否かは市教委の裁量に基づく認定、決定に委ねられているものである。そして、弁論の全趣旨によれば、亡朝眞は右にいう「在職中勤務成績優秀な者」にあたるものというべく、右増額支給決定を受けるのに必要な基準を満たし、市教委の増額支給の認定、決定を受けえたものであることがうかがわれるけれども、右増額支給決定が市教委の裁量にかかるものである以上、前記昇給、昇格等と同様の理由により当然右増額支給決定があつたものとして扱うことはできないものといわざるをえない。

三  しかして、本件失職の無効であることは前記説示のとおりであるから、本判決別表二1ないし5記載の給与のうち、差額部分すなわち昇給、昇格したこと及び期末、勤勉手当の認定、決定があつたことを前提とする部分、同6記載の死亡退職手当のうち、死亡時の給料月額中昇給、昇格したこと及び増額支給決定があつたことを前提とする部分をそれぞれ除く部分については、賃金性を肯認しうる部分として、給与及び死亡退職手当としてそれぞれ支給を受けることができ、控訴人はこれを支払う義務があるものというべきである。

そして、以上認定の事実関係に弁論の全趣旨(被控訴人ら主張のごとき昇給、昇格がなかつた場合の被控訴人阪峯らの給料月額が本判決別表四1ないし5記載の給料月額欄記載のとおりであることは被控訴人らの明らかに争わないところである。)を合せ考えると、右賃金性を肯認しうる部分は、本判決別表一1ないし5の各(一)(ただし、内入金、残金、遅延損害金起算年月日欄を除く。以下、特記しない限り同じ。)及び同6の(一)記載のとおりとなることは計算上明らかである(ただし、被控訴人藪内、同宮島を除く被控訴人阪峯らにおいて昭和四五年四月分までの調整手当の率について本判決別表二において控え目な率を採用しているものについては当裁判所においても右控え目な率を採用した。なお、計算上、円未満の端数は切り捨てた。この点は以下同じ。)。

四  よつて次に、右賃金性を肯認しうる部分の給与請求権についての消滅時効の抗弁、再抗弁、再再抗弁について検討する。

1  亡朝眞を除く被控訴人阪峯らの給与請求権について

(一) まず、控訴人の原審における主張及び抗弁6の(一)の消滅時効並びに当審における主張三の5の(二)のうちの主位的給与請求権の消滅時効の各抗弁について判断するに、本件記録によれば、亡朝眞を除く被控訴人阪峯らは甲事件において昭和四九年四月一九日に同日付請求の趣旨変更の申立書を提出して給与の請求をなしたこと及び同五五年五月二二日に同日付附帯控訴状、同年一二月二日に同日付準備書面を各提出して右請求をそれぞれ拡張したことが明らかであるから、地公法五八条三項、地自法二三六条一項、労基法一一五条により、右各日からそれぞれ二年を超えてさかのぼつた日である昭和四七年四月一八日、同五三年五月二一日、同年一二月一日の各日以前に弁済期の到来する分については、他に再抗弁事由のない限り、二年の時効によつて消滅する筋合である。

(二) そこで次に、同被控訴人らの原審における再抗弁1及び当審における主張二の4の(二)の(2) の再抗弁のうち主位的給与請求に関する部分について判断するに、同被控訴人らはその主張のごとき事由で控訴人の消滅時効の主張ないし援用は権利の濫用であり、信義則に反する旨主張するけれども、法は消滅時効によつて権利を失うべき者の権利の不行使がその者の誤解によるものかどうか、義務者が地方公共団体であるか否か、また、係争が長期に及んでいるか否かにかかわりなく、一律に一定期間の不行使による権利の消滅を定めているのであるから、同被控訴人ら主張の権利の不行使がその主張のような事情によるものであるとしても、これをもつて控訴人の右時効の主張ないし援用が権利の濫用ないし信義則に反するものとまでは到底いえないし、他にこれを肯認するに足りるほどの事由も認められないから、右再抗弁はこれを容れることができない。

(三) 次に、同被控訴人らの原審における再抗弁2の(一)及び当審における主張二の4の(二)の(1) の再抗弁のうち主位的請求に関する部分について判断するに、同被控訴人らは、賃金請求権は身分の存在から派生的に生ずるものであるから、身分の存在という基本的法律関係の確認を求める本訴を提起したことにより、その派生的請求権である賃金請求権についても同時に請求があつたものとしてあるいはこれに準じて、消滅時効の中断がなされたというべきである旨主張する。

ところで、賃金請求権の身分の存在という基本的法律関係から派生的に生ずる請求権であることはそのとおりではあるが、右基本的法律関係と右派生的請求権とは一応別個の権利であり、また、右派生的請求権をもつて右基本的法律関係と実質上同視しうるものということもできないから、身分の存在という基本的法律関係の確認を求める訴の提起によつて、賃金請求権についても裁判上の請求があつたとして消滅時効の中断を肯定する見解にはにわかに賛同し難い。

しかしながら、身分の存在確認の訴を提起し、これを維持することには、右身分関係から派生する請求権の主張ないしその履行を求める意思すなわち催告をも含むものと解すべきであり、右訴訟の係属中又は終了後六か月内に他の強力な中断事由に訴えることにより、消滅時効を確定的に中断することができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、同被控訴人らは本件失職通知を受けた後二年内の昭和四五年九月一〇日に甲事件原告として校務員たる地位確認の訴を提起し、同訴状は控訴人に送達されたこと、被控訴人らがいずれも右訴の係属中である同四九年四月一九日になした給与の請求及びその後の原、当審においてなした各拡張請求はいずれも右校務員たる地位の存在に基づく派生的請求権たる給与請求権にかかるものであることは本件記録により明らかであるから、他に再再抗弁事由のない限り、同被控訴人らについては甲事件の訴を提起した時点で、同被控訴人らの各主位的給与請求権の消滅時効は中断しているものというべきである。

(四) よつて更に、控訴人の当審における再再抗弁について判断するに、一般に、一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明示して訴を提起した場合、訴提起による消滅時効中断の効力はその一部についてのみ生じ残部には及ばないが、右趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく、この場合には、訴の提起により右債権の同一性の範囲内において、その全部について時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四五年七月二四日判決、民集二四巻七号一一七七頁参照)。

これを本件についてみるに、本件記録によれば、同被控訴人らは、原審において、甲事件を提起したうえ昭和四九年四月一九日に給与の請求をした後数次の請求の起旨の変更を経て同五三年二月二二日に同日付準備書面を提出することによつて、本判決別表三の第一審請求額欄記載のとおり請求し、当審において同五五年五月二二日に同日付附帯控訴状、同年一二月二日に同日付準備書面を各提出して同表の第二審請求額欄記載のとおり請求を各拡張したことが明らかであるが、仮に控訴人主張のごとく、同表記載の拡張分については原審当時すでに履行期が到来し、これを請求することに何らの障害がなかつたのに、あえてこれを請求することなく推移したとしても、その一事をもつて直ちに同被控訴人らが原審において本件給与債権のうちの一部についてのみ判決を求める趣旨であることを明示したということはできず、他にこれを肯認するに足りる事情はうかがわれないから、控訴人の右再再抗弁は失当たるを免れない。

2  亡朝眞の給与請求権について

(一) まず、控訴人は、当審における主張三の5の(一)において、被控訴人亡朝眞相続人らが昭和五二年一月二〇日付準備書面で初めて給与請求をなしたことを理由に、亡朝眞の給与請求権は時効で消滅した旨抗弁するが、本件記録によれば、被控訴人亡朝眞相続人らが初めて給与請求をなしたのは昭和四九年四月五日の乙事件の訴提起によつてであり、控訴人主張の準備書面によつてではないことが明らかであるから、右主張事実を前提とする控訴人の右抗弁は失当である。

(二) 次に、控訴人の原審における主張及び抗弁6の(一)の消滅時効並びに当審における主張三の5の(二)のうち主位的給与請求権の消滅時効の各抗弁について判断するに、本件記録によれば、被控訴人亡朝眞相続人らは昭和四九年四月五日乙事件を提起して亡朝眞の給与の請求をなしたこと及び同五五年五月二二日に同日付附帯控訴状、同年一二月二日に同日付準備書面を各提出して右請求を各拡張したことが明らかであるから、地公法五八条三項、地自法二三六条一項、労基法一一五条により右各日からそれぞれ二年を超えてさかのぼつた日以前に弁済期の到来する分については、他に再抗弁事由のない限り、二年の時効によつて消滅する筋合である。

(三) 次に、被控訴人亡朝眞相続人らの原審における再抗弁1及び当審における主張二の4の(二)の(2) の再抗弁のうち主位的給与請求に関する部分がいずれも失当であることは前記1の(二)説示のとおりである。

(四) よつて次に、同人らの原審における再抗弁2の(一)及び当審における主張二の4の(二)の(1) の再抗弁のうち主位的請求に関する部分について判断するに、亡朝眞が昭和四八年一月三日死亡し、被控訴人亡朝眞相続人らがこれを相続したことは当事者間に争いがなく、右事実と本件記録によれば、亡朝眞も甲事件原告として校務員の地位確認の訴を提起していたところ、昭和四八年一月三日死亡したため、同人の相続人である被控訴人亡朝眞相続人らにおいて右訴訟の受継申立をしたが、同年一二月二〇日原審裁判所によつて却下されそのころ確定したこと、そこで、同人らは同四九年四月五日乙事件を提起したものであることが明らかであり、右甲事件の訴提起によつて右訴訟の係属中又は終了後六か月内に他の強力な中断事由に訴えることによつて消滅時効を確定的に中断できるものと解すべきであることも前記1の(三)説示のとおりである。

しかしながら、亡朝眞については、校務員たる地位確認という一身専属的権利(法律関係)を訴訟物とする甲事件の係属中又は同事件が昭和四八年一月三日同人の死亡によつて訴訟終了した後六か月以内に、被控訴人亡朝眞相続人らにおいて他の強力な中断事由に訴えた旨の主張も立証もないから、同人らの甲事件提起による時効中断の再抗弁は理由がないものといわなければならない。

もつとも、昭和五五年五月二二日付附帯控訴状及び同年一二月二日付準備書面によつて拡張された各給与請求債権は乙事件の請求にかかる給与請求債権と同一性の範囲内に属するものと解されるので、再再抗弁事由のない限り、乙事件の提起によつて時効中断の効力が生じているものというべきである。

(五) よつて更に、控訴人の当審における再再抗弁について判断するに、右抗弁の失当であることは、前記1の(四)説示のとおりである(ただし、「甲事件を提起したうえ昭和四九年九月一九日に給与の請求をした」とあるのを「乙事件を提起して給与の請求をした」と、「昭和五三年二月二二日に同日付準備書面を提出」とあるのを「昭和五三年二月二二日に同日付準備書面、同年三月一〇日に同日付準備書面訂正申立書を各提出」と各改める。)。

(六) してみれば、本判決別表一の5(一)の累計欄記載の給与金額のうち、乙事件が提起された昭和四九年四月五日から二年を超えてさかのぼつた同四七年四月四日以前に弁済期の到来した分すなわち同表の内入金欄に時効と記載のある分については、時効によつて消滅したものというべきであるが、同表記載の給与金額のうち、昭和四七年四月二〇日以降に弁済期の到来する分についてはいずれも時効消滅はしていないものというべきである。

第三予備的損害賠償請求について

一  本件失職が無効で、それは任命権者たる市教委が地公法及び地公労法の解釈、適用を誤つたことによるものであることは前記第一の二で認定したところから明らかである。  1 そして、地公法上条例によつて定年制を設置し、その結果個個の職員の意に反して当該職員を失職させることの許されないことは、前記第一の二で認定したとおり、自治省の行政解釈においても再三確認され、国会においても地公法を改正して条例によつて定年制を設置できるようにするための改正法案が再再審議されており、各地方公共団体の大多数も右行政解釈を前提に退職勧奨、優遇措置の設置等により事実上定年制の実をあげるべく努力していたばかりでなく、学説上も右行政解釈が定説となつていたとみられること及び昭和三八年四月二日の最高裁判所判決も地公法が職員の任用を無期限とする建前をとることを肯認し、右行政解釈を是認するものと推認されることは、当裁判所に顕著な事実であり、右の点は地公法の解釈上ほとんど疑義のないところであつたというべきである。

2 また、前記第一の二で認定したとおり、労働協約といえども法律、条例等に抵触する範囲で効力がなく、この理は単労職員の地公法五七条、地公労法附則四項、七条と地公法二七条ないし二九条との関係についてもそのまま妥当することも行政実務上明らかなところであつたばかりでなく、学説上もこれが大方の見解であつたことは当裁判所に顕著な事実である。

3 そして、市教委も行政庁であつて、以上のような行政解釈及び学説、判例の存在したこと、従つて単労職員の定年制設置については労働協約によつても許されないことを職務上当然知つていたか、又は少なくともこれを知りうべかりしものであつたというべきである。

4 控訴人はこの点について、その主張のような事情で、市教委には本件失職が地公法に違反することについての認識がなく、認識することもできなかつた旨主張するが、右事情のうち、請求原因5の(一)に対する認否の項で主張する(2) の(ア)の(あ)ないし(か)の事情については、仮にそのような諸事情が存在したとしても、いまだ前記3の判断を左右するに足りず、また、同(イ)の主張も、前記最高裁判所の判決は控訴人主張のように自治省の前記行政解釈を是認していないものとまでは到底いい難いし、更に同(ウ)の主張は、定年制設置の許否について積極、消極両説が並存していたことを前提とするものであるところ、右両説が並存していたとまでは到底いい難いこと、前記認定より明らかであるから、結局控訴人の右主張は失当というほかはない。

二  ところで、市教委は控訴人の執行機関として設置されているもので(地自法一八〇条の五)、被控訴人阪峯ら校務員の任免権限も元来控訴人が処理する教育に関する事務及び法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する事務であり(地教行法二三条三号)、市教委の委員の任免も控訴人の長がなし(同法四条一項、七条)、予算も控訴人において編成すること(同法二九条)などからみて、市教委が職務執行としてその任免権限に基づき被控訴人阪峯らが失職したとして、同被控訴人らに対してなすべき被控訴人ら主張のごとき昇給、昇格、期末、勤務手当及び同宮城ヨシに対してなすべき同人主張のごとき死亡退職手当の増額支給についての各認定、決定をしなかつたことは、すなわち市教委の国賠法一条にいう公務員としての公権力の行使にあたるものというべきところ、前記一の説示から明らかなとおり、本件失職に基づく市教委の右各不認定、不決定は結局のところ市教委が少なくとも過失により地公法、地公労法の解釈、適用を誤つた結果なした違法なものというべきであるから、これにより同被控訴人らに生じた損害は控訴人において支払義務を負うべきものである。

なお、請求原因5の(一)に対する控訴人の認否中の(1) の主張は、(ア)本件失業通知には形成的効果はないこと、(イ)右通知以外に失職処分は存在しないこと、(ウ)本件覚書の締結を公権力の行使とはいえないこと、を理由に、本件において公権力の行使はなかつたと主張するもののごとくであるところ、前記説示のように、本件においては、本件失職やその通知、本件覚書の締結をもつて公権力の行使としているわけではなく、市教委が、本件失職を理由に、控訴人の職務執行としてなすべき昇給、昇格、期末、勤勉手当、増額支給の各認定、決定をしなかつたことをもつて公権力の行使としているのであるから、控訴人の右主張は失当というのほかはない。

三1  そして、被控訴人阪峯らが本件失職をすることがなければ、(ア)同被控訴人らは同人ら主張の昇給、昇格、期末手当、勤勉手当につき、(イ)亡朝眞の死亡退職手当の第一順位の受給権者であることについて当事者間に争いのない被控訴人宮城ヨシは亡朝眞の死亡退職手当の増額について、それぞれ市教委の各認定、決定を受け得たであろうことは前記第二で認定の事実関係から容易にうかがい知ることができるところ、右被控訴人らの右各認定、決定を受け得べき期待は十分法的保護に値するものと解すべきである。

2  ところで、控訴人は、六〇歳を超えて在職する校務員(管理作業員)等に対する昇給、昇格は経験則に反するから、被控訴人阪峯らについての右昇給、昇格は許されない旨主張するので考えてみるに、

(一) 国の場合は、国の給与法八条九項本文及び人事院規則九-八の三六条の二でもつて、行政職俸給表(二)の適用を受ける職員のうち六〇歳を超えて在職する者については昇給させないことにしているものの、同時に同法条には昇給を認める場合のあることも定められており、成立に争いのない乙第一三九、第一四〇号証によれば、大阪府の場合も、控訴人主張の条例五条八項本文及び規則二三条の三でもつて、六〇歳を超えて在職する職員(単労職員のみではない。)について昇給させないことにしているものの、同時に同法条には昇給を認める場合のあることも規定されており、京都府の場合も、また控訴人主張の条例六条四項及び規則三六条の二でもつて、六〇歳を超えて在職する職員(単労職員のみではない。)について昇給させないことにしているが、同時に同法条には昇給を認める場合のあることが定められていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) また、大阪府下の衛星都市をみても、六〇歳を超える高齢者に対する昇給や賃金改訂について別段の定めを置いていない地方公共団体が相当数存在することについては、控訴人の明らかに争わず自白したとみなされるところである。

してみれば、いまだ校務員(管理作業員)等の単労職員について六〇歳を超えて在職する場合は、昇給、昇格をさせない経験則があるとまではいうことができず、他にこれを認めるに足りるほどの証拠もないから、右経験則の存在を前提とする控訴人の右主張は失当である。

なお、控訴人は、控訴人においては市労連との合意に基づき、市教委所管の学校園職員を除くすべての職員に定年制が適用されていることを理由として、定年を超える者の昇給、昇格を予定していないとも主張するが、控訴人の条例、規則において、六〇歳を超えて在職する者については昇給、昇格をさせない旨の特別の定めのあることを認むべき証拠はないから右主張も失当である。

四  以上の次第であつてみれば、被控訴人阪峯ら及び同宮城ヨシは市教委の前記各不認定、不決定という不法行為によつて、請求原因4記載の金員すなわち本判決別表二1ないし6記載の金員から前記第二で認定の賃金性を肯認しうる部分すなわち同別表一1ないし6の各(一)記載の金員を控除した金員である給与相当損害金ないし増額支給相当損害金について損害を被つたものというべきところ、右金員が同別表一1ないし5の各(二)(ただし、内入金、残金、相続人ら取得金、遅延損害金起算年月日欄を除く。)及び同6の(二)記載の金員となることは計算上明らかであるから、控訴人は右被控訴人らに対し、それぞれ国賠法に基づく損害賠償として右各金員の支払義務があるものというべきである。

五  よつて次に、右損害賠償請求権についての消滅時効の抗弁、再抗弁、再再抗弁について検討する。

1  亡朝眞を除く被控訴人阪峯らの損害賠償請求権について

(一) まず、控訴人の原審における主張及び抗弁6の(二)の消滅時効並びに当審における主張三の5の(二)のうち予備的損害賠償請求権の消滅時効の各抗弁について判断するに、本件記録によれば、亡朝眞を除く被控訴人阪峯らは昭和五三年二月二二日に同日付準備書面を提出して損害賠償請求をしたこと及び同五五年五月二二日に同日付附帯控訴状、同年一二月二日に同日付準備書面を各提出して右請求をそれぞれ拡張したことが明らかであるところ、右各損害賠償請求権は、地自法二三六条一項、国賠法四条、民法七二四条により、右各日からそれぞれ三年を超えてさかのぼつた日以前に、本来なされるべきであつた昇給、昇格、期末、勤勉手当についての市教委の認定、決定に基づく給与の弁済期の到来する分については、同被控訴人らにおいてその当時右認定、決定のないことによる損害及びその加害者を知つていたことが弁論の全趣旨によつて認められるから、他に再抗弁事由のない限り、三年の時効によつて消滅する筋合である。

(二) そこで次に、同被控訴人らの原審における再抗弁六の1及び当審における主張二の4の(二)の(2) の再抗弁のうち予備的損害賠償請求に関する部分について判断するに、同被控訴人らはその主張のごとき理由で控訴人の消滅時効の主張ないし援用は権利の濫用であり、信義則に反する旨主張するけれども、右再抗弁が失当であることは、前記第二の四の1の(二)の説示のとおりである。

(三) 次に、同被控訴人らの原審における再抗弁2の(二)及び当審における主張二の4の(二)の(1) の再抗弁のうち予備的損害賠償請求に関する部分について判断する。

同被控訴人らの右各損害賠償請求権は、校務員たる地位とこれより派生する各給与請求権に由来し、かつ、右各給与請求権として請求していた一部について、控訴人の反論を受けて、甲事件係属中に予備的に新たな法的構成を追加したにすぎないものであることは本件記録により明らかであるから、右各給与請求権とその実質に変わりはなく、右各損害賠償請求は実質的にみて校務員たる地位の存在に基づく派生的請求権ということができる。 従つて、前記第二の四の1の(三)説示と同様の理由により、右各損害賠償請求権についても、他に再再抗弁事由のない限り、甲事件の訴を提起した時点で消滅時効は中断したというべきである。

(四) よつて更に、控訴人の当審における再再抗弁について判断するに、前記第二の四の1の(四)で主位的給与請求権について説示したところは損害賠償請求権の場合にも同様にいいうるので、控訴人の右再再抗弁は同じく失当といわなければならない。

(五) 以上の次第であるから、同被控訴人らの右損害賠償請求権はいずれも時効消滅はしていないものというべきである。

2  亡朝眞の損害賠償請求権について

(一) まず、控訴人は当審における主張三の5の(一)において、被控訴人亡朝眞相続人らが昭和五二年一月二〇日付準備書面で初めて給与請求をしたことを理由に被控訴人朝眞の損害賠償請求権は時効で消滅した旨を抗弁するが、本件記録によれば、被控訴人亡朝眞相続人らが初めて損害賠償請求をしたのは同五三年二月二二日付準備書面によつてであり、控訴人主張の準備書面によつてではないことが認められるので、右主張事実を前提とする控訴人の右抗弁は失当である。

(二) 次に、控訴人の原審における主張及び抗弁6の(二)の消滅時効並びに当審における主張三の5の(二)のうち予備的損害賠償請求権の消滅時効の各抗弁について判断するに、本件記録によれば、被控訴人亡朝眞相続人らは昭和五三年二月二二日に同日付準備書面を提出して損害賠償請求をしたこと及び同五五年五月二二日に同日付附帯控訴状、同年一二月二日に同日付準備書面を提出して右請求を各拡張したことが明らかであるところ、右各損害賠償請求権については地自法二三六条一項、国賠法四条、民法七二四条により右各日からそれぞれ三年を超えてさかのぼつた日以前に、本来なされるべきであつた昇給、昇格、期末、勤勉手当についての市教委の認定、決定に基づく給与の弁済期の到来する分については、亡朝眞においてその当時右認定、決定のないことによる損害及びその加害者を知つたことが弁論の全趣旨によつて認められるから、他に再抗弁事由のない限り、三年の時効によつて消滅する筋合である。

(三) 次に、被控訴人亡朝眞相続人らの原審における再抗弁六の1及び当審における主張二の4の(二)の(2) の再抗弁のうち予備的損害賠償請求に関する部分について判断するに、右再抗弁の容れ難いことは前記1の(二)のとおりである。

(四) 次に、同人らの原審における再抗弁2の(二)及び当審における主張二の4の(二)の(1) の再抗弁のうち予備的損害賠償請求に関する部分について判断する。

まず、前記1の(三)の法理はこの場合にも同じく妥当するが、前記第二の四の2の(四)と同様の理由により、亡朝眞の甲事件提起による消滅時効中断の再抗弁は理由がない。

しかし、前記1の(三)の説示と同様の論旨で、右各損害賠償請求権のうち昭和五三年二月二二日に請求されたものは乙事件として提起された給与請求権とその実質において変わりはないものというべきであるから、乙事件の訴を提起しこれを維持することは、右損害賠償請求権の主張ないしその履行を求める意思すなわち催告を含むものと解することができ、乙事件訴訟の係属中又は終了後六か月内に他の強力な中断事由に訴えることにより消滅時効を確定的に中断することができるものと解することができる。

そして、乙事件の訴状が控訴人に送達されたこと、同人らが乙事件の訴の係属中である昭和五三年二月二二日に右損害賠償請求をなしたことは本件記録上明らかであるから、右損害賠償請求については、他に再再抗弁事由のない限り、乙事件の訴提起によつて時効中断の効力が生じているというべきである。

また、昭和五五年五月二二日付の附帯控訴状及び同年一二月二日付の準備書面によつてそれぞれ拡張された損害賠償請求債権は、同五三年二月二二日付の請求にかかる損害賠償請求債権と同一性の範囲内に属するものと解されるので、他に再再抗弁事由のない限り、同五三年二月二二日付の請求によつて時効中断の効力が生じているものというべきである。

(五) よつて更に、控訴人の当審における再再抗弁について判断するに、右再再抗弁の失当であることは前記第二の四の2の(五)説示のとおりである。

(六) してみれば、本判決別表一5(二)の累計欄記載の給与相当損害金額のうち、乙事件の訴が提起された昭和四九年四月五日から三年を超えてさかのぼつた同四六年四月四日以前に昇給、昇格、期末、勤勉手当についての市教委の認定、決定に基づく給与の弁済期の到来した分すなわち同表内入金欄に時効と記載のある分については、亡朝眞においてその当時右認定、決定のないことによる損害及びその加害者を知つていたことが弁論の全趣旨によつて認められるから、右の分については時効により消滅したというべきであるが、同表記載の給与相当損害金額のうち昭和四六年四月二〇日以降に弁済期の到来する分についてはいずれも時効消滅はしていないものというべきである。

第四内入金、相続関係等について

一  被控訴人阪峯らが、昭和四五年九月七日控訴人からそれぞれ本判決別表二1ないし5の内入金欄記載の金員の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

そして、弁論の全趣旨からみて、被控訴人らは、右内入金について、これを本訴金員請求権(亡朝眞の死亡退職手当を除く。)のうち、早い年次のものから順次、各年度の三月二〇日毎にその元金に充当する旨を自認していると解されるので、前記第二において認定の主位的金員請求たる給与請求権及び第三において認定の予備的金員請求たる損害賠償請求権のうち、早い年次のものから順次各年度の三月二〇日(ただし、亡朝眞については昭和四七年度のみ昭和四八年一月二〇日)毎に給与請求権、損害賠償請求権の順序で順次その元金に充当することにすると、本判決別表一1ないし5の各(一)、(二)の内入金欄記載のとおりとなり、内入後の残金は同残金欄記載のとおりとなり、亡朝眞の給与請求権についてはその全額に充当されたことになる。

二  亡朝眞が昭和四八年一月三日死亡し、同人とその主張のごとき身分関係にある被控訴人亡朝眞相続人らがこれを相続したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、他に相続人のないことは本件記録上明らかであるから、被控訴人宮城ヨシは三分の一、その余の被控訴人亡朝眞相続人らは各六分の一の割合で亡朝眞の権利を相続によつて承継し、従つて同人らは右割合により本判決別表一5(二)の相続人ら取得金欄記載の各金員の損害賠償請求権を取得したものというべきである。

三  亡朝眞の死亡退職手当については、被控訴人宮城ヨシが第一順位の受給権者であることは前記のとおり当事者間に争いがないので、同被控訴人において右死亡退職手当請求権を取得したものというべきである。そして、本件記録によれば、同被控訴人が控訴人に対し右死亡退職手当の請求をしたのは乙事件の訴状が控訴人に送達された昭和四九年四月一七日であることが明らかであるところ、右死亡退職手当の弁済期について別段の主張も立証もない本訴においては、労基法二三条により、右退職手当の履行期は右訴状送達の日から七日経過後の同月二四日であるというべく、また、市教委が増額支給決定を怠ることによつて同被控訴人に対し同増額相当額の損害を与えた日も同日であるというべきである。

第五将来の主位的給与、予備的損害賠償請求について

被控訴人亡朝眞相続人らを除く被控訴人らの主位的給与請求及び予備的損害賠償請求のうち、当審口頭弁論終結の日の翌日から本訴地位確認請求についての判決確定の日までの分については、右各請求の内容、控訴人の応訴態度等からみて同被控訴人らにおいてあらかじめ請求する必要があると認められるが、その確定後においてもなお控訴人は同被控訴人らに対し給与ないし同相当損害金を支払わないであろうと認めるべき資料はないから、右確定の日の翌日以降の分についてはあらかじめ請求する必要があるということはできない。

第六結論

一  以上説示の次第であつてみれば、

1  被控訴人亡朝眞相続人らを除く被控訴人らの、

(一) 地位確認請求、

(二) 主位的給与請求中、

(1)  本判決別表一1ないし4の各(一)の各同被控訴人ら関係部分の残金欄最下段記載の金員及びその内金である同累計欄記載の各金員(ただし、残金欄に金額の記載のある場合はその金員)に対する各弁済期後である該当遅延損害金起算年月日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求、

(2)  昭和五七年一二月以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り同表の各同被控訴人ら関係部分の最下段の「昭和五七年一二月一日以降毎月給料・諸手当(期末・勤勉手当を除く)合計金」欄記載の金員の請求、

(三) 予備的損害賠償請求中、

(1)  本判決別表一1ないし4の各(二)の各同被控訴人ら関係部分の残金欄(残金欄がないものについては累計欄)最下段記載の金員及びその内金である同累計欄記載の各金員(ただし、残金欄に金額の記載のある場合はその金員)に対する各不法行為の日の後である該当遅延損害金起算年月日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求、

(2)  昭和五七年一二月以降本判決確定に至るまで毎月二〇日限り同表の各同被控訴人ら関係部分の最下段の「昭和五七年一二月一日以降毎月給料・諸手当相当損害金合計金」欄記載の金員の請求、

はいずれも理由がありこれを認容すべきであるが、本判決確定の日の翌日以降の主位的給与請求及び予備的損害賠償請求の各訴は不適法として却下し、その余の主位的給与請求は理由がないから棄却すべきであり、

2  被控訴人宮城ヨシの、

(一) 主位的給与等請求中、本判決別表一6(一)記載の(F) の金員とこれに対する弁済期の翌日である昭和四九年四月二五日以降右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求、

(二) 予備的損害賠償請求中、

(1)  本判決別表一5(二)の相続人ら取得金欄記載の(A) の金員とこれに対する不法行為の日の後である同表の遅延損害金起算年月日欄記載の日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求、

(2)  本判決別表一6(二)記載の(1) の金員とこれに対する不法行為の日の昭和四九年四月二四日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求、

はいずれも理由がありこれを認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであり、

3  その余の被控訴人亡朝眞相続人らの予備的損害賠償請求中、本判決別表一5(二)の相続人ら取得金欄記載の(B) の金員とこれに対する不法行為の日の後である同表の遅延損害金起算年月日欄記載の日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求は理由がありこれを認容すべきであるが、その余の請求及び同被控訴人らの主位的給与請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

二  してみれば、原判決中、地位確認請求を認容した部分は相当であつて、右部分に対する本件控訴は理由がないが、前記一の判断と異なるその余の部分は一部不当であり、本件控訴及び附帯控訴はそれぞれ一部理由があるので、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、被控訴人亡朝眞相続人らを除く被控訴人らの仮執行宣言の申立中主文7項を超える部分及び控訴人の仮執行免脱宣言の申立はいずれも不相当であるからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 島崎三郎 高田政彦 古川正孝)

(別表) 一ないし四〈省略〉

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